地域金融機関の再編が地域経済に与える影響-市区町村レベルの地域銀行の店舗データを用いた検証-

執筆者 播磨谷 浩三 (立命館大学)/尾崎 泰文 (釧路公立大学)
発行日/NO. 2019年12月  19-J-070
研究プロジェクト 地域経済と地域連携の核としての地域金融機関の役割
ダウンロード/関連リンク

概要

マイナス金利政策による厳しい収益環境を反映し、地域金融機関の再編が加速する傾向にある。近く、10年間の時限措置を設けて独占禁止法の適用除外を認める特例法の制定も予定されており、さらに地域銀行の再編が集中的に進むことも予想される。他方、地域金融機関の再編が地域経済にどのような影響を与えているのかについては、必ずしも明らかにされているわけではない。本論では、2005年度から2015年度までの市区町村レベルのデータを用いて、再編を経た地域銀行の店舗が存在したか否かで、景況指標の変化が相違するのかについてDifference-in-differences(DID)の手法を用いて検証を行った。また、再編の形態を、合併による場合と金融持株会社の設立による場合とに分け、それぞれの推定結果の比較を行った。再編のタイミングが同じではないことから、本論では2005年度と2015年度の2期間のパネルデータを分析対象とし、再編からの経過年数を政策変数として考慮した。

分析の結果、合併について政策変数はほとんど有意な影響を与えていなかったのに対し、金融持株会社の設立については課税対象所得、地方税歳入額、開業率、製造品出荷額等に対して有意な影響を与えていることが確かめられた。特に、再編を経た地元銀行の店舗が存在した地域ほど景況指標は悪化するが、再編からの経過年数が長いほど改善することが明らかにされた。なお、東京都区部と政令指定都市を除いて同じ分析を行ったところ、整合的な結果が得られることが確かめられた。

このように、合併による効果は認められず、金融持株会社による効果は認められるという対照的な結果は、急激な経営組織の変化を伴わずにグループとしての統一的な経営戦略を推進できるという金融持株会社による再編の利点を反映していると見ることができる。