多角化の資源としての本社機能

執筆者 川上 淳之 (東洋大学)
発行日/NO. 2019年10月  19-J-061
研究プロジェクト 生産性向上投資研究
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概要

本論文は、企業の多角化に本社の機能が与える役割を、経済産業省「企業活動基本調査」を用いて実証分析を行うものである。Bernard, Redding and Schott (2010)で指摘されているように、アメリカの製造業では多角化を行っている企業は単一事業の企業よりも生産性が高い。日本においては、「経済産業省企業活動基本調査」の収録企業を対象に固定効果モデルで推定を行った結果から、90年代には単一事業企業の方が多角化企業よりも生産性が高く、金融危機以降で多角化企業が単一事業よりも生産性が高いことが確認される。

以上の点を踏まえ、Nocke and Yeaple (2014)で提案されている多角化に必要な資源としての組織資本を、本論文は本社機能の従業者を代理指標とし、多角化との関連を推定した。その推定結果からは、固定効果を除かない推定においては、管理的役割の本社機能および起業家的役割の本社機能を資源として保有する企業で多角化が進んでいる傾向がみられたが、固定効果を除いた推定においては、管理的役割の本社機能の影響は統計的有意な結果は得られず、起業家的役割は本社の事業の削減を低減させる影響を通じて多角化に影響を与えることが示された。事業の追加と削減両方を促していたのは、組織の効率性であった。