入院医療における競争とプロセス・アウトカム指標

執筆者 庄司 啓史 (衆議院調査局)/井深 陽子 (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2019年8月  19-J-047
研究プロジェクト 医療・教育サービス産業の資源配分の改善と生産性向上に関する分析
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概要

競争と医療の質の関係については、多くの先行研究の蓄積があるが、分析対象となる国や時期によって結果が異なっており、必ずしも結論付けられた問題ではない。この要因の一つに国による制度の差異が考えられているが、日本の政府統計を使用し、この問題を真正面から分析対象とした文献は存在しない。そこで本稿では、医療施設、患者及び地理情報データをマッチングした医療施設単位で集計された最新のパネルデータ(2008、2011、2014年)を使用し、入院医療における競争と患者・病院特性を調整したプロセス・アウトカム指標(プロセス指標:平均在院日数、アウトカム指標:入院の転帰としての軽快又は死亡)との間の関係を実証的に分析するものである。本稿は、規制により管理された競争政策を導入している日本における、競争とプロセス・アウトカム指標の関係を明らかにすることを目的としている。分析結果によれば、都市部・地方部を問わず、競争度の高い地域では、プロセス・アウトカム指標が良好な傾向にあることが確認された。ただし、都市部においては一部のアウトカム指標に非線形の関係も見られ、閾値を超えた過度の競争が、逆にアウトカム指標を低下させている可能性も示唆されている。以上の結果から、一定程度の競争環境が今回分析に使用した3つのプロセス・アウトカム指標の向上へとつながる一方、過度の競争は望ましくない可能性を示唆している。