訪問介護産業の労働生産性—事業所データを用いた分析

執筆者 鈴木 亘 (学習院大学)
発行日/NO. 2019年8月  19-J-043
研究プロジェクト 日本と中国における介護産業の更なる発展に関する経済分析
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概要

本稿は、厚生労働省がインターネット上で公開している「介護サービス情報公表システム」の事業所別データを用いて、訪問介護産業の労働生産性を分析した。分析の結果、下記の諸点が明らかとなった。
(1)製造業やサービス業に関する先行研究と同様、訪問介護についても事業所別の労働生産性には大きな格差が生じている。また、格差の持続性も高い。
(2)事業所別の労働生産性には、範囲の経済、競争環境、操業期間、法人種、地域の人口要因、サービスの質などが影響している。規模の経済に関しては、1法人1事業所の場合には有意に労働生産性が低い。事業所の労働者数については規模の不経済がある。
(3)退出事業所のみならず、新規参入事業所も労働生産性が低い。Olly and Pakes(1996)の方法により静学的な効率性を計測すると、生産性の高い事業所ほどシェアが高い関係が一定程度認められる。一方、Griliches and Regev(1995)の方法によって労働生産性上昇率を要因分解したところ、内部効果と退出効果は正に寄与している一方、再配分効果と参入効果は負の寄与であった。
(4)労働生産性の対数分散を、①地域内(市区町村内)要因と、②地域間要因に分解したところ、地域内要因の方が圧倒的に大きいことがわかった。