RCTをめぐる3つの問題とその解法―精度問題、ノンコンプライアンス、仲介変数による観察中断

執筆者 山口 一男 (客員研究員)
発行日/NO. 2019年1月  19-J-003
研究プロジェクト 日本におけるエビデンスに基づく政策の推進
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概要

本稿では、RCT(randomized controlled trials)で政策評価などを行う際に直面する3つの問題に対しての標準的対応を解説する。その1つは、精度を高める(あるいは同じ精度で標本数を少なくすることで調査コストを削減する)標本抽出方法についてである。2つ目はノンコンプライアンス問題である。調査による治療群と統制群の割り当てと、実際に「治療」(treatment)を受けた人と受けなかった人の対応が完全でなく、ランダム性が失われるときの因果推定の問題である。この問題に対して操作変数法による標準的な解法があるが、ここでも精度問題が関連し、本稿は一定条件がデータで満たされれば、より高い精度の推定が可能であることを示したブラックら(Black et al. 2015)の最新の手法をあわせて紹介する。3つ目は、「死亡」など観察中断を意味する仲介変数が関連する場合(Truncation-by-deathの問題といわれる)の治療効果の推定問題である。この問題の重要性と「完全な解決」の難しさは、近年因果推論での話題の1つである。本稿では、なぜDIDなど通常の解決案が不十分と考えられているかについて、その背後にある考え方を紹介するとともに、この場合は統制群の平均治療効果(ATU)を推定する必要があり、やや強い仮定ではあるが、「無視できる割り当て」を仮定して推定する方法を紹介する。またこの問題の考え方の背後に、ノンコンプライアンス問題と共通の枠組みである、「主層化法(Principal Stratification)」と呼ばれる行動パターンに関する潜在クラスの考えがあり、その考えが解決法の評価にとって重要な役割を示すことをあわせて解説する。最後に、米国での初等教育政策のデータ例を用いて、ノンコンプライアンス問題についての精度の高い因果推定方法の利用に関し具体的に例示する。