調整力市場におけるネガワット取引とエネルギー利用効率

執筆者 庫川 幸秀 (早稲田大学)/田中 誠 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2018年1月  18-J-003
研究プロジェクト 電力システム改革における市場と政策の研究
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概要

本稿では、エネルギー利用効率の水準が電力需要者の(需給逼迫時の)節電行動に与える影響および、ネガワット取引を含む調整力市場の効率性に与える影響を明らかにする。さらに、社会厚生を最大にするエネルギー利用効率の決定要因について比較静学分析を行う。主な結果は以下のとおりである。第1に、エネルギー利用効率の向上はベースライン需要における消費便益を増大させる一方、ネガワット価格の上昇をもたらし、調整力市場における費用効率性を低下させる。火力電源の外部費用を考慮する場合、ベースライン需要を賄う(通常時の)電力が低炭素型に移行するほど、調整力市場における(需給逼迫時の)火力発電の影響が相対的に大きくなるため、社会的に最適なエネルギー利用効率の水準は低下する。同様の理由で、通常時の電力供給における火力電力の割合が十分低い場合は、火力発電の外部費用が大きいほど、エネルギー利用効率の最適水準は低下する。また、最適な炭素税が導入されているケースと、炭素税が導入されていないケースを比較すると、後者で選択されるエネルギー利用効率の水準が過大になり、炭素税を導入することで過大なエネルギー利用効率の水準を適正水準に抑制する効果も発揮されることが明らかになった。