日本の中小企業における利益の質に関する実証分析

執筆者 金 鉉玉 (東京経済大学)/安田 行宏 (一橋大学)
発行日/NO. 2017年4月  17-J-031
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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概要

本稿の目的は日本の中小企業の「利益の質(earnings quality)」について実証的に検証することである。具体的には、2006年度から2013年度までの日本の中小企業と上場企業について、(1)利益の持続性(persistence)、(2)利益のベンチマーク(benchmarks)、(3)会計発生高(accruals)の3つの観点から比較分析を行う。本稿で得られた主な結果として、第1に、中小企業の利益の持続性は上場企業のそれよりも相対的に低いというものである。たとえば、上場企業では70%ほど今期の営業利益で次期の営業利益を説明(予測)できるが、中小企業ではその説明力が55%ほどまでに低下する。第2に、ベンチマークの観点から区分損益情報や利益率の分布についてみると、中小企業においてわずかな黒字を計上する企業が目立つということである。これは損失回避を示唆する結果であり、利益調整の観点からすれば、利益の質が低いと考えられる。ただし、上場企業との比較において際立った特徴は見受けられない。そして第3に、中小企業の方が上場企業に比べて会計発生高の質が低いということである。これらの結果は、中小企業の利益の質が上場企業より低いことを示唆するものである。総じて、利益の質の改善の観点からすると、本稿の分析結果は概ね中小企業の会計情報の信頼性向上を目指す方向性を首肯するものであり、この意味で「中小企業の会計に関する基本要領」の政策的取り組みを支持するものといえる。