負のピア効果―クラスメイトの学力が高くなると生徒の学力は下がるのか?―

執筆者 外山 理沙子 (慶應義塾大学)/伊藤 寛武 (株式会社Habitech)/田端 紳 (慶應義塾大学SFC研究所)/石川 善樹 (株式会社Habitech)/中室 牧子 (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2017年3月  17-J-024
研究プロジェクト 医療・教育の質の計測とその決定要因に関する分析
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概要

近年の経済学の研究では、学力の決定要因の1つとして「ピア効果」―同じクラスの友人の学力が本人の学力に与える影響―に注目が集まっている。しかし、過去の研究では、データの制約もありはっきりとした結論が得られていない。そこで本研究では、埼玉県(さいたま市を除く)の公立小・中学校の全生徒を対象として2015年および2016年に実施された「埼玉県学力・学習状況調査」の学力調査の個票データを用いて、付加価値モデルの教育生産関数を推定し、負のピア効果の存在を確認した。これは、ある生徒が平均的な成績が良いクラスに所属した場合、翌年当該生徒の成績が下がっていることを意味しており、クラスの平均的なIRTスコアが1上昇すると、国語では本人のスコアは0.09~0.23、算数・数学では0.16~0.27下がる。成績のよい同級生がいることによって、自分の相対的な学力が低いという自己認識を持ち、学習意欲が低下するという可能性が指摘できるため、特に成績下位層の生徒に、教育の期待収益率が高くなるような、自分の潜在的な能力が低いという自己認識を持たせないような関わりや指導を行うことが重要と考えられる。