ノンテクニカルサマリー

負のピア効果―クラスメイトの学力が高くなると生徒の学力は下がるのか?―

執筆者 外山 理沙子 (慶應義塾大学)/伊藤 寛武 (株式会社Habitech)/田端 紳 (慶應義塾大学SFC研究所)/石川 善樹 (株式会社Habitech)/中室 牧子 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト 医療・教育の質の計測とその決定要因に関する分析
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「医療・教育の質の計測とその決定要因に関する分析」プロジェクト

多くの保護者は、自分の子供に「なるべく学力の高い友人と学校生活を送ってほしい」と願っているだろう。その裏側には、学力の高い友人と付き合えば、学力の高い友人から勉強の仕方を教わったり、進学への意欲なども影響を受けてくれるだろうという強い期待があるはずだ。これは、経済学でいうところの「ピア効果」(友人から受ける影響)がプラスであるならば、決して間違いではない。しかし、実際には、このピア効果がプラスであるか、マイナスであるか、あるいはピア効果そのものがほとんど存在しないのかについては、さまざまな結果が混在しており、特に日本のデータを用いた実証研究の結果についてはコンセンサスが得られている状況にはない。

本稿では、2015年から埼玉県が実施している「埼玉県学力・学習状況調査」(さいたま市以外の埼玉県下の全ての自治体の公立小・中学校の生徒が参加している)の個票データを用いて、ピア効果の推定を行った。ここでは、ある生徒が、平均的な成績が良いクラスに1年間所属した後、その生徒の成績が前年度の始めと比べて上がっている場合はプラスのピア効果、下がっている場合はマイナスのピア効果、変わらない場合はピア効果は存在しないと考えた。実証分析の結果は、学年、性別、科目によらず、負のピア効果が存在することを示唆している。これは、クラスメイトの成績が高いクラスだと、本人の成績は下がるということを意味しており、先行研究に倣って、単学級を除き、学校固定効果をコントロールしたModel 4の結果をみてみると、クラスの平均的なスコア(項目反応理論に基づく学力の推定値)が1上昇すると、国語では本人のスコアは0.09〜0.23、算数・数学では0.16〜0.27下がる。負のピア効果の理由として、成績のよい同級生がいることによって、自分の相対的な学力が低いという自己認識を持ち、学習意欲が低下するという可能性が指摘できる。教育の期待収益率を高めるためには、自分の潜在的な能力が低いという自己認識を持たせないような関わりや指導を行うことが重要と考えられる。

表1:国語
表1:国語
[ 図を拡大 ]
表2:算数・数学
表2:算数・数学
[ 図を拡大 ]
(注)1. Model(1)〜(5)は、クラス単位の属性等をコントロールするか否か、単学級や習熟別学級実施校を除外するかどうかなどの条件を変えて推定したもの
2. *は5%水準で、**は1%水準で、***は0.1%水準で統計的に有意であることを示す。
(出所)埼玉県学力・学習状況調査