女性活躍推進と労働時間削減の可能性:経済学研究にもとづく考察

執筆者 山本 勲 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2016年3月  16-J-019
研究プロジェクト ダイバーシティと経済成長・企業業績研究
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概要

本稿では、日本企業の職場で見られる長時間労働慣行が女性の正社員や管理職としての登用を阻害する要因になっているという山本[2014]の検証結果を受けて、長時間労働がどのような要因によってもたらされるかを労働需要と労働供給の2つの視点から整理した。具体的には、労働需要要因として、労働の固定費の大きさや人的資源管理の非効率性、労働者の交渉力を低める市場構造について、また、労働供給要因として、消費(労働)重視の選好、労働供給弾性値の小ささ、心理・性格特性、ピア効果(負の外部性)、昇進競争(ラットレース)について、先行研究の知見にもとづきながら整理した。さらに、そうした整理を踏まえて、日本で女性活躍推進を進めるうえで、どのような長時間労働をどのような方向性で削減することが適切かを検討し、以下のように議論した。まず、正社員の雇用の流動化を促すことは、労働の固定費が減り、労働時間需要が削減されるものの、日本的雇用慣行の抜本的な見直しにもつながるため、移行期の社会的費用と長期的な便益を勘案しながら、慎重に検討するべきといえる。次に、過剰な長時間労働を削減する手段として、割増賃金率の引き上げや適用除外(ホワイトカラーエグゼンプション)、労働時間の量的規制(時短、上限規制、有給休暇取得義務化)、法令遵守の強化などが挙げられるが、日本の労働市場では、労働時間の上限規制や有給休暇の取得義務化、法令遵守の強化が労働時間の削減につながる可能性がある。ただし、いずれの場合でも、単に労働時間を削減するだけでは不十分で、それを契機に仕事の内容や働き方を見直し、生産性の向上を図ることも重要といえる。また、総労働時間の長さを是正するだけでなく、勤務間インターバル制度や労働時間貯蓄制度などの柔軟な働き方を実現する制度の導入も進め、女性が働きやすい職場を整備していくことも重要といえる。