日本企業の資金再配分

執筆者 植杉 威一郎 (ファカルティフェロー)/坂井 功治 (京都産業大学)
発行日/NO. 2015年6月  15-J-035
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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概要

企業セクター全体における借入金の変化は、借入金を増加させた企業の資金フロー(credit creation)と借入金を減少させた企業の資金フロー(credit destruction)のさまざまな組み合わせによってもたらされる。企業の資金調達行動には、2つの資金フローを合計したネットの変化では表すことができない異質性があり、企業間で絶え間ない資金再配分(credit reallocation)が生じている可能性がある。これらの異質性および資金再配分の性質を理解することは、企業の資金調達行動のメカニズムを理解するうえで重要な意義をもつ。

本稿では、『法人企業統計季報』(財務省)に収録されている1980年度第1四半期から2014年度第1四半期までの日本企業を対象とし、Davis and Haltiwanger (1992)の雇用再配分の分析手法を援用して、企業の資金調達行動の異質性および資金再配分の性質を検証する。得られた結果は以下の5点である。

第1に、景気変動のどの局面においても、ネットの資金量の変化を相当程度上回る資金再配分(credit reallocation)が生じており、資金調達行動は企業間で非常に異質である。第2に、credit destructionの変動はcreationの変動よりも大きい。この結果は、credit creationにはサーチやスクリーニングなどのさまざまな費用が生じるとする情報の非対称性の理論やサーチ・マッチング理論と整合的である。第3に、資金再配分の規模は1990年代に急激に低下しており、この時期に貸出市場の資金再配分機能が低下していたとする議論と整合的である。第4に、日本企業の資金再配分は景気変動と有意な相関をもつ。具体的には、credit creationとreallocationは景気と順相関である一方で、destructionは景気と逆相関である。第5に、中小企業においては、credit destructionが景気と逆相関である一方で、creationとreallocationは景気変動と有意な相関をもたない。これは、情報の非対称性の問題がより深刻な中小企業においては、景気拡張期の正の需要ショックに対するcredit creationの反応が大企業より小さい可能性を示唆している。

※本稿の英語版ディスカッション・ペーパー:19-E-004