執筆者 |
黒田 祥子 (早稲田大学) /山本 勲 (慶應義塾大学) |
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発行日/NO. | 2014年4月 14-J-020 |
研究プロジェクト | 労働市場制度改革 |
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概要
本稿は、従業員を追跡したパネルデータを用いて、労働時間の長さとメンタルヘルスとの関係を検証する。先行研究では、労働者に固有の効果をコントロールしたり、労働者属性や職場環境などの詳細な情報をコントロールしたりしたものが少ないため、長時間労働がメンタルヘルスの毀損につながるのかどうか、必ずしも明確な知見が得られていない。本稿の分析では、パネルデータを活用して逆の因果性を考慮するとともに、仕事の特性や自律性、残業時間、不払い残業時間などの要因とメンタルヘルスの関係を明らかにする。分析の結果、メンタルヘルスの状態は同一労働者でも経年的に大きく変化することが確認された。次に、労働時間の長さはメンタルヘルスを毀損する要因となりうることが実証的に認められたほか、特にサービス残業という金銭対価のない労働時間が長くなるとメンタルヘルスが悪化する危険性が高くなることも明らかになった。ただし、属性別にみると、男性・40歳未満・大卒といったグループではサービス残業がメンタルヘルス悪化の要因として挙げられる一方、女性や大卒以外の層では金銭対価の有無にかかわらず時間的な拘束が長くなるほどメンタルヘルスが悪化する要因となることも示唆された。これは時間制約に直面する度合いが属性間で異なることも関係していると考えられる。ただし、メンタルヘルスの毀損は個人の問題に帰するものとはいえず、仕事の進め方や職場環境・風土によって大きく左右されることも分かった。これらの結果は、労働時間の長さや職場環境の改善が一次予防対策として有効となりうること、こうした改善を図ることによって悪くなりかけた心の健康を取り戻すことも可能であることを示唆している。