投資協定が多国籍企業の活動及びホスト国の経済厚生に与える影響についての経済分析

執筆者 服部 哲也  (拓殖大学)
発行日/NO. 2014年1月  14-J-001
研究プロジェクト 国際投資法の現代的課題
ダウンロード/関連リンク

概要

本論では、知識資本モデルを用いて、ホスト国の市場構造の違いによって、投資協定の締結が、多国籍企業の活動およびホスト国の経済厚生に、どのような影響を与えるのかということについて論考する。多国籍企業が独占企業であるとき、多国籍企業間で競争が行われるとき、何れにおいても、投資協定を締結し、多国籍企業の海外直接投資を促すことによって、ホスト国の経済厚生は向上する。多国籍企業間に競争があるとき、海外直接投資が行われると、その経済厚生は一層高くなる。しかし、そのときは、多国籍企業が海外直接投資を選択するインセンティブを持つ範囲は狭くなるために、ホスト国にとっての最適な投資協定のコミットメントの水準は高くなる。それに対して、ホスト国に輸入競合企業が存在するとき、割引率がある閾値よりも小さければ、多国籍企業が海外直接投資を行うインセンティブを持つ領域は広がるが、かえって、ホスト国の経済厚生は低下することになる。しかしながら、ホスト国に輸入競合企業が存在する場合であっても、多国籍企業の海外直接投資によって、技術のスピルオーバーが生じるときには、投資協定を締結し、多国籍企業に海外直接投資を促すことによって、ホスト国の経済厚生は高められる。ただし、その場合、ホスト国にとっての最適な投資協定のコミットメントの水準は、多国籍企業間で競争が行われるときよりも、さらに高いものとなる。ホスト国の市場構造によって、投資協定がホスト国の経済厚生に与える影響や最適なコミットメントの水準は異なってくるので、ホスト国の市場構造の分析を踏まえて、投資協定締結交渉を行うことが重要である。