投資仲裁判断の執行に関する問題

執筆者 水島 朋則  (名古屋大学)
発行日/NO. 2013年12月  13-J-078
研究プロジェクト 国際投資法の現代的課題
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概要

たとえば投資家への損害賠償の支払を命ずる仲裁判断を投資受入国が履行しない場合、どのようにして投資仲裁判断を執行するかという問題が生ずる。ICSID条約およびニューヨーク条約は、対象となる仲裁判断を執行する義務をすべての締約国に課しており、投資仲裁の実効性を高める法的枠組を整えているように見える。しかしながら、実際には、外国の財産を執行措置から免除する執行免除の規則によって投資仲裁判断の執行が妨げられる事例がある。しかも、近年、執行免除を与える外国の主権的財産の拡張解釈や、外国による執行免除の放棄の限定解釈を通じて、執行免除の範囲を拡大する実行が見られる。したがって、投資受入国が仲裁判断を履行しない場合に、投資家がとり得る手段では、仲裁判断の執行は十分に保証されていないといえる。その場合、投資家の本国が、伝統的な投資紛争解決手段である外交的保護を行使して、投資受入国に仲裁判断の履行を求めることができると考えられるが、その一形態として国際司法裁判所に訴えることは、一般的に認められているものではない。投資仲裁判断の実効的な執行は、制度的には担保されていないと評価するほかないであろう。