製造業における生産性動学とR&Dスピルオーバー:ミクロデータによる実証分析

執筆者 池内 健太  (科学技術政策研究所) /金 榮愨  (専修大学 / 科学技術政策研究所) /権 赫旭  (ファカルティフェロー) /深尾 京司  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2013年5月  13-J-036
研究プロジェクト 地域別生産データベースの構築と東日本大震災後の経済構造変化
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概要

工場レベルのデータを用いた最近の生産性動学分析によれば、生産性の高い工場が閉鎖されるために退出効果が負であったことと、中小工場で全要素生産性(TFP)上昇が低迷したことが、1990年代以降の日本の製造業の生産性上昇低迷の主因であった。本論文では、『工業統計調査』や『科学技術研究調査』のミクロデータを接合し、地域経済学の視点からこの2つの問題を研究した。我々は第1に、生産性動学を全製造業と都道府県別に行い、どの地域で負の退出効果が生じたかを分析した。その結果、1995年以降、東京、大阪、神奈川など製造業の集積地で大きな負の退出効果が生じたことが分かった。我々は第2に、工場のTFP上昇に対する、当該工場を持つ企業の研究開発(R&D)の効果、他社や政府のR&Dのスピルオーバー効果、等を計測した。その結果、ある企業の工場が他企業のR&Dから受けるスピルオーバー効果は、他企業の工場との距離が遠いほど減衰すること、産業集積地におけるR&D集約的な企業の工場閉鎖が1990年代後半以降スピルオーバー効果を著しく弱めたことが分かった。産業集積地におけるR&D集約的な企業の工場閉鎖が、負の退出効果と中小工場におけるTFP上昇の低迷を同時にもたらしたことになる。この他、1990年代後半以降、大学以外の公的機関のR&Dが減少したことにより、公的R&Dから日本の製造業へのスピルオーバー効果が低下した可能性が高いことも分かった。