労働法の目的、対象、手法の新展開―イギリス労働法学における労働市場規制論に焦点を当てて―

執筆者 石田 信平  (北九州市立大学)
発行日/NO. 2013年5月  13-J-030
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

非典型労働の増加に対して労働法がどのような役割を果たすべきかが、問われている。本稿では、こうした問題状況に対応する形で展開されてきているイギリスの労働市場規制論を概観する。1980年代にイギリスで生じた労働市場規制論は、労使の対等決定や交渉力格差の是正に労働法の役割を求めてきた伝統的労働法学とは異なり、労働市場の制度的基盤の編成に労働法の役割を求め、個別の取引を「労働市場」という大きな枠組みの中に置くべきであると主張するものであるが、こうした議論については、(1)交渉力格差の是正に代わる新たな規範的基礎と(2)労働法の適用範囲を画する基準が明らかにされなければ有益な議論ではないという批判が当てられてきた。近時の労働市場規制論は、上記の批判に答えて新たな視点を提起するものであり、労働法を労働市場を規制する法として把握し、労働法と他の法領域や他の社会科学との有機的連動を強調する(労働法の手法)とともに、交渉力格差の是正に代わる労働法の新たな規範的基礎(労働法の目的)やその適用範囲の基準(労働法の対象)に関する議論を展開してきている。本稿は、こうした議論を概観することを通じて、わが国の労働法規制のあり方に示唆を得ようとするものである。