最低賃金の労働市場・経済への影響‐諸外国の研究から得られる鳥瞰図的な視点‐

執筆者 鶴 光太郎  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2013年3月  13-J-008
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

本稿では、海外や日本において行われてきた最低賃金に関する理論的、実証的な研究を包括的に紹介し、こうした研究の到達点がどこにあるのか鳥瞰図的な視点から明らかにした上で、日本の最低賃金政策を考える上でのインプリケーションを提示する。

まず、最低賃金政策の是非を巡って重要な判断基準となる雇用への影響については、日本でも実証分析の蓄積が進んでおり、大規模なミクロ・パネルデータを使い、より最低賃金変動の影響を受けやすい労働者へ絞った分析は、ほぼ雇用へ負の効果を見出している。こうした事実を踏まえて最低賃金政策のあり方を評価、議論していく必要がある。また、雇用のみならず、所得分布、労働時間、収益、価格、ひいては人的資本への影響を分析し、最低賃金による影響の総合的な評価を行うことも重要である。

具体的な政策提言としては、まず、第1に、最低賃金の引き上げを認める場合も、政策的には特定のグループが過度な負担を背負うことを極力回避すべきである。ヨーロッパ諸国のように、若年に対し年齢階層に分けて異なる最低賃金を適用することも検討に値しよう。第2に、最低賃金を引き上げる場合でも、なるべく緩やかな引上げに止めるべきである。第3に、最低賃金制度への依存は労使関係の機能不全の象徴と考えると、低賃金労働者の待遇改善を労使関係の中でいかに実現させていくかという方向の努力も必要である。第4に、日本においてもイギリスの低賃金委員会(LPC)のようなエビデンスに基づいて最低賃金に関わる政策判断を行うような専門組織を検討すべきである。