電力供給と産業構造

執筆者 佐藤 仁志  (研究員)
発行日/NO. 2012年4月  12-J-007
研究プロジェクト 日本経済の創生と貿易・直接投資の研究
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概要

東日本大震災に伴う原発事故によって生じた電力供給構造の変化が産業全体に及ぼす影響が懸念されている。本稿は、電力供給能力が製造業の生産と貿易に長期的にどのような影響を与えるかを考察するため、各産業の生産シェアが産業の生産性(TFP)、生産要素賦存に依存するモデルをOECD15カ国、12製造業部門からなるパネルデータを用いて推計した。推計の結果、発電容量ないし電力産業の生産性の低下の影響は産業によって異なり、電気機器、輸送機器、一般機械を含むいくつかの産業ついては負の影響が見られた。電気機器、輸送機器、一般機械などは日本が相対的に高い生産シェアを有しており、推計結果は発電容量ないし電力産業の生産性の低下が比較優位を弱める方向に働くことを示唆している。電力供給に関する各産業の生産の弾力性と産業自身のTFPの生産の弾力性を試算したところ、ほとんどの製造業部門で前者は後者の半分以下であった。また、産業のTFPの変化は短期的にも生産に影響を与えるが、電力供給能力の変化が生産に与える影響は短期的には小さく、長期的なものであるという推計結果も得られた。