輸出による学習効果の分析:輸出開始とイノベーション活動の相互作用

執筆者 伊藤 恵子  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2011年6月  11-J-066
研究プロジェクト 東アジア企業生産性
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概要

本稿は、輸出開始企業が、輸出の学習効果により生産性を向上させるのかどうかを分析するものである。本稿の分析によれば、北米または欧州向けに輸出を開始した企業は、そうでない企業よりも、売上、雇用、生産性や研究開発費において、高い成長率を示した。一方、アジアに輸出を開始した企業は、明確な生産性成長率の向上効果は認められなかったものの、売上、雇用、研究開発活動については、輸出を開始しなかった企業よりも高い成長率を示した。また、売上や雇用、研究開発活動への正のインパクトは、北米/欧州に輸出を開始した企業のほうがアジアに輸出を開始した企業よりも格段に大きかった。北米/欧州に輸出を開始した企業は、アジアに輸出を開始した企業よりも、輸出開始以前にすでにパフォーマンスが良く、前者は後者よりも潜在的に技術受容能力が高いことが示唆される。この高い技術受容能力自体が、輸出の学習効果の源泉の1つであるといえるかもしれない。さらに、輸出開始後に、前者は所有する特許数を増加させる傾向が見られたが、後者についてはそのような傾向は見られなかった。これらの結果は、潜在的にイノベーション志向の革新的な非輸出企業に対して、輸出を促進するような政策的支援が有効であることを示唆しているといえよう。