執筆者 |
水町 勇一郎 (東京大学) |
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発行日/NO. | 2011年4月 11-J-059 |
研究プロジェクト | 労働市場制度改革 |
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概要
非正規労働者をめぐる問題のなかで、その中心に位置づけられるのは正規労働者との待遇格差問題である。この問題を解決するための政策的な選択肢としては、①同一キャリア同一待遇原則、②同一労働同一待遇原則、③合理的理由のない不利益取扱い禁止原則という3つのものが考えられる。これらのうち、現行のパートタイム労働法8条は同一キャリア同一待遇原則(①)をとり、民主党の政権公約(2009年)は同一労働同一賃金(②同一労働同一待遇原則の1つ)を謳っている。しかし、これらのように特定の型(「同一キャリア」や「同一労働」など)を求める法原則をとると、それ以外の多様な人事雇用システムに適合的でなくなり、また、キャリアや職務内容に直結していないさまざまな給付(通勤手当、社内食堂、健康診断など)に対応できないといった問題が生じる。法律上同一労働同一待遇原則(②)を定めているフランスやドイツでは、これらの問題点を克服するために、実際上は客観的(合理的)理由のない不利益取扱い禁止原則(③)に沿った運用がなされている。日本でも人事制度(賃金制度)の多様化・複線化や労働者への給付の多様さ・広範さが想定されるなか、広く合理的理由のない不利益取扱い禁止原則(③)をとり、その「合理的な理由」の判断のなかに個別の実態の多様性を取り込んだ対応をすることが、理論的にも実際上も妥当と考えられる。本稿ではさらに、フランスやドイツでの議論等を参考にしながら、同原則の内容と性質(特に「合理的な理由」の解釈の指針とその具体的判断の枠組み)を具体的に明らかにし、同原則の運用上の課題(予測可能性の低さ)への対応の途も示している。