規制強化に向けた動きと直視すべき現実

執筆者 小嶌 典明  (大阪大学)
発行日/NO. 2011年4月  11-J-058
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

「行き過ぎた規制緩和」。これまで行われた派遣法の改正については、このように評されることが多い。しかし、現在進行中の、または今後予定されている規制強化の方が、むしろ「行き過ぎた規制強化」というにふさわしい。

非正規雇用を代表するものは、今日もパートであり、派遣の規模はその約9分の1にとどまっている。在学中の者や65 歳以上の高齢者を除くと、非正規雇用の伸びは、近年、明らかに鈍化しているという事実もある。

臨時雇用が増えたとはいうが、常用雇用の伸びはそれを上回っており、就業者に占める常用雇用者の割合は、男女ともに、今や過去最高の水準にある。女性の場合、臨時雇用の伸びが男性より大きいとはいうものの、その一方で無給の家族従業者が激減しており、これらの者が有給の臨時雇用者に転換したと考えれば、不安定雇用が増加したとは一概にいえない。

しかるに、非正規雇用の規制強化を求める議論には、一時の感情論や印象論に流され、このような事実を正確に認識していないものが多い。実際にも規制強化のターゲットとされた派遣については「行き過ぎた規制強化」が目立ち、派遣を代表する業務である「事務用機器操作」の業務に関しては、景気が多少回復したにもかかわらず、実稼働者が減少を続けるという異常な事態が生じている。

派遣法改正の後には、有期雇用についても、その対象を臨時的・一時的な業務に限定する等大幅な規制強化が予定されているが、有期雇用を制限すれば、正規雇用が増えるとの考え方は、あまりにも楽観的にすぎる。「程良い規制」でなければ、現場はこれに対応できない。このことも忘れてはなるまい。