非正規労働者の希望と現実―不本意型非正規雇用の実態―

執筆者 山本 勲  (慶応義塾大学)
発行日/NO. 2011年4月  11-J-052
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

本稿では、『慶應義塾家計パネル調査』(2004~10年)の個票データを用いて、正規雇用の職がないために仕方なく非正規雇用に就いている不本意型の非正規雇用の実態を明らかにするとともに、就業形態毎に人々の主観的厚生水準がどのように異なるかを検証する。検証の結果、非正規雇用の大多数は自ら選択している本意型であること、しかし不本意型の非正規雇用者は失業者の約1.5倍と無視しえない人数であること、不本意型の非正規雇用は独身、20歳代あるいは40~50歳代、契約社員や派遣社員、運輸・通信職や製造・建設・保守・運搬などの作業職などで多く、また、景気循環との関係では不況期に増える傾向があることなどが明らかになった。このほか、就業形態の選択行動や就業形態間の移行状況をみると、不本意型の非正規雇用は、同じ非正規雇用であっても本意型とはその特性が異なり、むしろ失業との類似性が高いことがわかった。次に、個々人の主観的厚生指標として心身症状(ストレス)の大きさを点数化した指標を就業形態間で比較したところ、正規雇用よりも非正規雇用や失業、非労働力でストレスが大きくなっていることがわかった。しかし、個人属性や就業選択の内生性をコントロールすると、正規雇用よりもストレスが大きいのは、不本意型の非正規雇用と失業だけであることも確認できた。つまり、非正規雇用だからといって厚生水準が低くなっているとは限らず、その大多数を占める本意型については正規雇用や非就業と厚生水準は変わらない。一方で、不本意型の非正規雇用については、失業と同程度に、他の就業形態よりもストレスが有意に大きくなっており、需要側の制約のために効用が低下し、健康被害という形でその影響が顕現化していると解釈できる。