希望労働時間の国際比較:仮想質問による労働供給弾性値の計測

執筆者 黒田 祥子  (東京大学) /山本 勲  (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2011年3月  11-J-033
研究プロジェクト ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
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概要

本稿では、日本・イギリス・ドイツの労働者を対象にしたアンケート調査をもとに、3カ国の労働者の余暇に対する選好に違いがあるかを検証した。分析の結果、以下のことが分かった。まず、3カ国の労働者の労働時間を比べると、実労働時間だけでなく希望労働時間も日本人のほうがイギリス人やドイツ人よりも有意に長いことがわかった。次に、希望労働時間の長さが賃金や非勤労所得にどの程度反映するか、すなわち労働供給の代替弾性値と所得弾性値を比較した結果、日本人は、イギリス人やドイツ人に比べて、賃金や所得の変動に対して希望労働時間を弾力的に変化させる度合いが小さいことが示された。最後に、労働者の希望労働時間が職場や企業環境の影響を受けるかどうかを検証したところ、長時間労働が評価されるような職場や企業で働く労働者ほど、実労働時間だけでなく希望労働時間も長くなっていることがわかった。また、同じ企業で働く労働者の実労働時間や希望労働時間の長さは類似する傾向があり、個々の労働時間のばらつきの少なくとも4割以上が同一企業で働いているという要因で説明できることも示された。これらのことは、日本人の労働供給弾性値は国際的にみて小さく、賃金や所得によって希望労働時間が変化する可能性は低いものの、それは必ずしも今後も変わらない日本人に固有の選好や国民性を反映したものではなく、企業における人的資源管理の方法や職場環境によっては労働者の希望労働時間が将来的に変化しうることを示唆している。