ネット上の著作権保護強化は必要か-アニメ動画配信を事例として

執筆者 田中 辰雄  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2011年1月  11-J-010
研究プロジェクト 著作権の最適保護水準
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概要

インターネット上でコンテンツ配信ビジネスが広がるとき、常に著作権保護のあり方が課題になる。ネット上の配信のためにはDRMなどでの著作権保護が前提という声がある一方、むしろ著作権を緩めたほうが配信ビジネスに役立つという見解もある。コンテンツ配信は音楽、動画、そして書籍とひろがってきたが、そのたびにこの問題は繰り返されてきた。この問題を考えるに当たり、もっとも重要な論争点は、著作権法上違法とされる私的コピーの影響の評価である。ネット上の私的コピーが著作権者の収入を減らすなら、被害が生じている事になり、著作権保護強化が必要になりうる。しかし、収入を減らしていないなら、著作権保護にこだわらずに配信に乗り出したほうが業者にとって利益が増え、また経済厚生も高まる。この点について音楽については実証がかなり行われており、一定の知見が得られている。しかし動画についての実証は多くは無い。本研究では日本のテレビアニメを題材にとりあげて動画における私的コピーの影響をとりあげる。具体的にはネット上の配信であるYouTubeとWinnyが、DVD売上とビデオレンタル収入を減少させているかどうかを検証する。その結果、全体として、私的コピーによる著作権者の収益減少は限定的であり、YouTubeの場合著作権者の収入を増やすこともあるという結論が得られている。日本のネット配信では著作権保護強化を要求してコンテンツの供給が進まない例が多く見られるが、このような態度は得策とはいえない。著作権者は私的コピーをあまり気にすることなく、ネット配信に乗り出すべきであり、政策もこれを励ます方向に進むべきであろう。