ソフトウェア・イノベーションの知識ベース

執筆者 鈴木 潤  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2009年7月  09-J-019
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概要

わが国のソフトウェア産業の競争力が低いという点はたびたび指摘されているが、産業としてのイノベーション・システムは、どのような発展経路をたどり、どのような問題を抱えているのであろうか。本研究では、わが国のソフトウェア産業に関して、イノベーション・システムの主な構成要素としての知識ベースと知的財産制度の関係について、データに基づく実証分析を行った。

ソフトウェア関連特許は1990年代後半に出願数が急増しているが、審査請求率や被引用率などの指標から見て、出願数の急増が価値の低い特許の量産につながっているのではないかという批判を支持するような証拠は得られなかった。ソフトウェア関連特許の出願人属性別の分析や引用分析等の結果からは、ソフトウェア分野の知識ベースの拡大には、家庭用ゲーム機のような新たな技術機会の出現が大きな影響を及ぼしており、新たなアクターが出現しつつあることが示された。ただし、特許制度は新興企業よりも既存企業によって、より有効に活用されていることが示唆された。

わが国においては、ソフトウェア技術の進歩に大学が果たす役割は限定的なものであると認識されているが、データからは日本においてもアカデミック・セクター(大学および大学以外の公的研究機関を含む)からのソフトウェア技術に関する情報発信が増加し、またその内容も徐々に産業上の有用性が増しつつあることが示唆された。一方、RIETI発明者サーベイの個票データを用いた分析からは、企業にとって大学研究者との共同発明や研究協力、大学への派遣・出向などの直接的な関係構築は、必ずしも価値の高いソフトウェア特許に結びつくものではなく、そこから生まれた特許は自社ではかえって利用しにくいものとなる場合もあることが示された。しかし同時に、知識ベースとしてみた場合、アカデミック・セクターが生み出す情報を研究の着想や実施時に活用するならば、産業界にとって価値の高い特許を取得することができるなどの結果が得られた。