執筆者 |
赤井伸郎 (ファカルティフェロー) /中村悦広 (財団法人建設物価調査会 総合研究所) |
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発行日/NO. | 2009年5月 09-J-007 |
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概要
国立大学は2004年度より法人化し、自主性・自立性によるインセンティブ強化を通じた効率化を促すため、裁量的な予算措置とともに、大学運営組織の面からも制度の改革が行われた。これにより、制度上、運営組織は、学長を中心としたガバナンスが確立され、自主的で効率的・効果的な大学運営を目指すこととなった。しかし、そのような構造は当初意図したとおり、効果的に機能しているのであろうか。現状として、データを用いた科学的検証は全くなされていない。そこで本稿では、大学の財務パフォーマンスに対する国立大学の運営組織ガバナンスの効果について、データを用いた検証を行った。
本稿では、大学のガバナンスを表す指標として、組織要因として理事組織の意志決定、監事監査組織の意志決定、および学長のリーダーシップを表す変数を用いて推定した結果、理事会、監事組織の意思決定や学長リーダーシップが高まることで、交付金依存度を低下させること、および寄付金や受託研究、受託事業の割合が高まること、学長リーダーシップが高まることで、人件比率が低下すること、および教員当たり研究経費が高まること、監事組織の意思決定への関与が高まることで、学生当たり教育経費が低下することが示された。
法人化の目的が学長の権限強化によるガバナンス組織構造の構築を通じた効率的な大学運営であることを踏まえれば、本稿の推定結果は、制度改革が意図した目的が、良い方向で実現されていると評価できよう。今後も、学長のリーダーシップを良い方向に発揮し、教育と研究の質を確保した上で、財務上の効率性を高めるようなガバナンス制度が構築されることを期待する。