効率性と公平性のトレードオフについて-サーベイデータに基づく観察事実-

執筆者 森川 正之  (上席研究員)
発行日/NO. 2008年7月  08-J-036
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概要

本稿は、一般個人及び経済学者に対するサーベイの結果に基づき、効率性と公平性への態度や政府サービスの受益と負担への考え方についての観察事実を整理する。

日本の国民は公平性志向が比較的強く、ある程度の成長を前提とすれば格差縮小のために所得の伸びをいくぶん犠牲にしても良いと考えている。負担を伴っても社会保障をはじめ各種公共サービスを充実した方が望ましいと考えている人が多く、特に高齢層で顕著である。一方、経済学者は、平均的には現状程度の所得格差を支持している。格差是正のための所得再分配の拡大や「大きな政府」が経済成長に及ぼす負の影響が比較的大きいと判断しているが、専門家の間でもばらつきが大きい。具体的な政策へのスタンスには、専門家としての判断と個人の価値観とがともに影響している。

社会保障・税制といった所得再分配に関連する政策は、資源配分の効率性や経済成長との間にトレードオフがあることが少なくない。この場合、それぞれにどの程度のウエイトを置き、いかなる政策を採用するかは究極的には国民の選択である。複数の目標の間でのウエイト付けが必要な場合、適切な制度設計のためには、トレードオフの程度をできるだけ定量的に推定するとともに、人々の価値観の分布を把握することが重要である。