執筆者 |
伊藤 隆敏 (ファカルティフェロー) |
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発行日/NO. | 2008年4月 08-J-010 |
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概要
本論文は、中国とアジアの為替政策について、2005年7月の中国の為替政策の変更の前後でどのように変化したかについて、計量経済学的検討をおこなうことを目的としている。中国とアジアの通貨政策は、国際金融にかかわる世界的課題の重要な構成要素である。2005年7月以前の中国といくつかのアジア諸国の為替政策は、事実上の対ドル固定相場制(ドルペッグ)であった。中国による経常収支の黒字の拡大と大規模な為替介入は、諸外国や国際機関より、為替政策変更の圧力を招くこととなった。中国は、2005年7月に中国は為替政策を変更、自国通貨の対ドル価値の上昇を認めるようになった。政策変更の声明の中では、ドルペッグの破棄、バスケット価値の参照などをうたっている。中国以外の新興アジア通貨の為替政策には、いくつかのパターンがある。香港(通貨危機以前から)、マレーシア(1998年9月以来)もドルペッグを採用している。そのほかの通貨も、対ドルの価値を安定させるように、規模の大小に違いはあるものの、介入を行ってきた。そのなかで、シンガポールは、アジア通貨危機以前から、伝統的にバスケット制(主要貿易相手国通貨の加重平均価値)を採用してきた。本論文では、厳密な形で、バスケット通貨のウェイトの推定を行い、中国の為替政策の前後で、どのように中国以外の国の為替政策が変化したか、の推定をおこなう。その結果、中国の2005年7月の改革後の為替政策は「バスケット制」には程遠く、対米ドルのクローリング・ペッグであることがわかった。また、改革後の主要新興アジア通貨は(インドネシア・ルピア、台湾ドルを除いて)、中国人民元よりも切り上げ幅も、変動性も高いことがわかった。