日本のM&Aの経済分析:その国際的特徴と経済的役割

執筆者 宮島 英昭  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2007年6月  07-J-026
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概要

日本経済は、いま戦後の経済発展のなかではじめて合併・買収(Merger and acquisition, 以下M&A)の大きなブームを経験しつつある。本稿の課題は、1990年代末から急速に増加した日本のM&Aの決定要因と経済的役割を様々な角度から解明する点にある。

第1に、本稿は、まず日本のM&Aの国際的特徴を、その発生要因、形態的特徴について検討する。近年のM&Aブームが、成長機会を拡大する技術革新、規制緩和といった世界的なブームと共通の要因だけでなく、過剰設備をもたらす経済ショックや企業結合法制の整備といった日本に独自の要因に基づくことが強調される。また、日本のM&Aの特徴としては、持株会社による統合、買収、資本参加などターゲット企業の自立性を維持する傾向が強く、基本的に当事者間の相対取引を中心とすること、こうした特徴は、合併(法人格の統合)の形を選択する傾向が強く、アームスレングスな取引によって特徴付けられる英米型のM&A市場とは大きく異なる点を指摘する。そして日本の企業システムの進化とM&Aの関係に関しては、伝統的な日本企業システムの解体がM&Aのブームを促進した側面ばかりでなく、ハイブリッドな形に進化する日本企業システムの特性が日本のM&Aに固有の特徴を与えた面のあることが強調される。

第2に、本稿は、増加するM&Aが果たした経済的役割を、M&Aの2面性に注目する視角から総括する。1990年代末からのM&Aが日本経済の資源配分効率、企業の組織効率の上昇に寄与していること、アクティビストファンドの活動は正の株価効果をもち、ターゲットの財務政策に影響を与えつつあること、他方、経営者の過信や、株式市場の過大評価、M&Aによるステークホルダー間の信頼の破壊といったM&Aがともなうマイナスの側面はいまだシステマティックには発生していないことが、ここでの基本的なメッセージである。