執筆者 |
中馬宏之 (ファカルティフェロー/一橋大学イノベーション研究センター) |
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発行日/NO. | 2006年5月 06-J-043 |
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概要
我が国半導体産業は、1990年代後半以降,急速に競争力が低下した。本論では、その構造的な要因を、特に生産システムに焦点を当てて探る。その際に注目する要因は、半導体産業自身が生み出したIT技術の “自己増殖”的進化によってもたらされたテクノロジーやマーケットの急速な複雑性増大現象である。このような複雑性の増大は、専門的な知識・ノウハウ、ならびにそれらを効果的に結びつける統合的(=摺合わせ的)な知識・ノウハウを累積的かつ速やかに生み出す仕組みを要請する。ところが、我が国の半導体生産システムは、未だにそのような仕組みを十分に創り出せていない。本論では,その要因を明らかにし、解決のためのヒントを模索したい。なお、本論では分析対象を半導体生産システムに限定しているが、問題発生の構図は、半導体産業のいたるところにまるでフラクタル図形のように見いだせる。その意味では、「製造中心の時代はすでに終わり,今や設計中心の時代である」といった時代認識は、全体としては正しいものの、大きな危険性をはらんでいる。というのは、我が国半導体産業が、世界の半導体産業をリードするDRAM後のテクノロジー・ドライバーを効果的に生み出せないまま地盤沈下している原因が、「新たに必要となったワンランク上の抽象レベルでの統合的知識・ノウハウを累積的に蓄積するスピードの律速」という生産システムの弱化要因と本質的に同一である可能性が高いからである。