年金制度改正が男性高年齢者の労働供給行動に与える影響の分析

執筆者 樋口美雄  (ファカルティフェロー/慶應義塾大学商学部) /黒澤昌子  (ファカルティフェロー/政策研究大学院大学) /石井加代子  (慶應義塾大学大学院商学研究科) /松浦寿幸  (研究スタッフ)
発行日/NO. 2006年4月  06-J-033
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概要

人口の長寿化・高齢化が進む中で、高い能力と経験を持つ高齢者を積極的に活用していくアクティブ・エイジング社会を目指すことは、日本経済の活力維持のためにも、時代の要請であるといえる。そのためには、高齢者の就業意欲を抑制しない形で公的年金制度を維持していくことは、重要な課題である。老齢厚生年金は、2001年より定額部分の受給開始年齢の段階的引上げ、2002年以降より60歳代後半の在職老齢年金制度適用を段階的に進めている。これらの制度改革が高齢者の労働供給にどのような影響を与えているか。これについて、厚生労働省『高年齢者就業実態調査(個人票)』2000年度調査および2004年度調査を用い、各就業形態を選択した場合の期待賃金や、それに応じた年金受給額の調整が労働供給に影響を与えるという構造を明示的にモデルに組み込んだモデルの推定、ならびに制度改正に直面する年齢グループとそれ以外についての制度変更前後の就業状況を比較することを通して、年金の制度改正が高齢者の労働供給に与える影響を検証する誘導形モデルの推定という2つの方法を通して検証を行った。分析の結果、厚生年金定額部分の受給開始年齢の引上げは有意に労働供給を増やしていることが分かった。一方、60歳代後半の在職老齢年金制度適用の効果については統一的な結果が得られなかった。