創業期における政府系金融機関の役割

執筆者 根本忠宣  (中央大学) /深沼 光  (国民生活金融公庫) /渡部和孝  (大阪大学)
発行日/NO. 2006年1月  06-J-004
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備考

(この論文は経済産業研究所の研究プロジェクトの一つである「企業金融研究会」の成果の一部である。この研究会の成果の全体像と各論文の位置付け等についてはこちらを参照)

概要

本論では、中小企業向けアンケートの個票データに基づく計量分析によって、創業期における政府系金融機関の役割を明らかにしようと試みた。検証するべきポイントは2つである。1つは、政府系金融機関と民間金融機関の補完関係であり、もう1つは、政府系金融機関による直接貸付の有効性である。

第1のポイントについてはプロビットモデルを用いた分析を行なった。その結果、政府系金融機関は、主に民間金融機関から借りられない企業を対象としていることが確認された。具体的には、政府系金融機関は民間金融機関に比較して資産・担保力が脆弱であり、事業経験のない創業者に対する貸付の比率が高いという傾向が検証された。地域属性やマクロ経済環境属性においても民間金融機関との補完関係が検証されたことから、創業期の企業に限定していえば政府系金融機関が民間金融機関と競合しているという事実はみてとれない。

第2のポイントについては雇用成長率を被説明変数としたOLS及びIVを用いた分析を行なった。その結果、政府系借入ダミー、政府系借入ダミーX創業年数(対数)の内生性を考慮した操作変数において交差項が有意に正の符号となることが検証された。このことは、政府系金融機関のみから借り入れた企業が創業年数の経過とともに緩やかに成長していくという可能性を示唆している。