銀行システム危機への政策対応 - 実証研究および事例研究とその教訓(サーベイ)-

執筆者 小林 慶一郎  (研究員)
発行日/NO. 2002年9月  02-J-016
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概要

近年、世界各国で多発する銀行危機については、事例研究および実証研究が徐々に蓄積されてきた。それらの研究によって、銀行システム危機への政策対応に関して多くの教訓が引き出されている。本稿では、世界銀行・IMFその他のエコノミストによる最近の研究をサーベイし、そこから引き出される政策的教訓(特に我が国の経済政策、銀行政策に役立つと思われるもの)を整理する。あらかじめ結論をまとめると以下の通りである。

(0) 問題の所在を正しく認識すること(「銀行システム危機の本質は一時的な流動性不足ではなく銀行の債務超過と低収益性である」)が正しい政策対応を生み出す必要条件である。

(1) 無制限な流動性供給、無制限の預金者保護、規制の先送りは、危機解決に要する財政コストの総額を有意に増大させる。

(2) 銀行の債務超過を是正する政策(公的資金による資本増強、債権回収機関の設置)は、財政コストの総額に有意な影響を与えない。

(3) 無制限な流動性供給は、実体経済の回復を阻害する効果を有意に持つ。

(4) 銀行システム再生には、債務超過の穴埋め(資本増強と不良債権処理)だけでなく、銀行のオペレーションの改革(人員・支店網の大幅削減、リスク管理手法や内部組織の改革など)が不可欠である。

(5) システム再生に不可欠な銀行や企業の淘汰・再編は、市場メカニズムに反しても、政府がある程度は中央集権的に進めることが必要である。

(6) 銀行システム再生は通常の銀行監督業務とは異質な仕事であり、通常の銀行監督当局が行うべき仕事ではない。時限的な特別機関に主導させるべきである。

(7) 銀行システムを再生する際には中央銀行の「最後の貸し手」機能に過度に依存すべきではなく、中央銀行が銀行システム再生の主導機関になるべきではない。