雇用調整・賃金抑制・廃業:製造業のマイクロデータによる実証分析

執筆者 橘木 俊詔/森川 正之
発行日/NO. 1998年8月  98-DOJ-94
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概要

本稿は日本の製造業の事業所の雇用変動、賃金変動について通商産業省「工業統計調査」のマイクロデータを使用して定量的な分析を行ったものである。

本稿の特徴は、①集計データではなく事業所レベルの大量のマイクロデータを使用して雇用創出・雇用喪失に影響を及ぼす事業所特性・産業特性を分析したこと、②廃業の影響を明示的に考慮に入れて分析を行ったこと、③雇用調整と賃金調整の同時決定を考慮したことである。

本稿の分析結果の要点は以下の通りである。

1) 大規模工場ほど、既存(古い)工場ほど、多角化した工場ほど、平均賃金水準の高い工場ほど存続確率が高い。

2) 雇用変動の出荷額変動に対する弾性値は小さい。高賃金の工場ほど、男子従業者比率の高い工場ほど、雇用喪失が小さい傾向がある。

3) 出荷額の変動に対して、従業者数よりも賃金や労働時間での調整の方が大きい。男子比率の高い工場ほど、資本装備率の高い工場ほど、賃金水準の低い工場ほど、賃金調整は小さい傾向がある。

4) 雇用調整と賃金調整の間にはトレードオフの関係がある。この点は、廃業の影響を調整し、かつ、雇用と賃金の同時決定を考慮した上で確認されたものである。

5) 雇用調整及び賃金調整の分析において、廃業サンプルを明示的に考慮しないと推計結果はバイアスを持つ可能性がある。