参入・退出と雇用変動:製造業のマイクロデータに基づく分析を中心に

執筆者 森川 正之/橘木 俊詔
発行日/NO. 1997年10月  97-DOJ-85
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概要

本稿は、近年の日本における参入・退出、雇用変動について、主として製造業のマイクロデータに基づき、定量的な分析を行ったものである。

参入・退出、開業・廃業に関しては、次のような結果が得られた。

1)粗参入率・粗退出率、開業率・廃業率は、純参入率よりもずっと大きい。

2)景気局面による違いを見ると、景気後退局面での事業所数の減少は粗退出率(廃業率)の増加ではなく粗参入率(開業率)の低下によるところが大きい。

3)新規開業事業所、廃業事業所は、存続事業所と比較して小規模であり、製品の多角化度、生産性が低い傾向がある。

4)単独工場(1企業1事業所)と複数工場(2以上の事業所を持つ企業の事業所)を比較すると、開業率には差がないが、廃業率は単独工場の方が高い。ただし、非製造業を含めて見ると、複数事業所(特に支所)の開業率・廃業率が高い。

5)業種別に見たとき、粗参入(粗退出)を 1)新規開業参入(廃業退出)、 2)他産業からの転換参入(他産業への転換退出)に分けると、粗い業種分類では開業の比率が高いが、業種分類を細分すると事業転換の割合がかなり高くなる。これは事業転換が近接した産業の間で多いことを反映していると考えられる。

6)粗参入率の高い産業は粗退出率も高いという関係が認められる。ただし、都道府県別には、開業率の高い県の廃業率が高いという関係は認められない。

7)産業別に見て、グロスでの事業所数の変動には時間的な継続性があるが、純変動率には継続性がない。都道府県別では、粗参入率・粗退出率だけではなく、純参入率でも継続性が認められる。

8)規模別には、小規模事業所ほど開業率、廃業率が高い傾向がある。

9)製造業について言えば、平均的に見て規制産業の粗参入率・粗退出率、開業率・廃業率が低い傾向がある。ただし、非製造業を含めて見ると、規制が開業・廃業、参入・退出を抑制する効果を持っているとは言えない。

雇用変動については、以下のような点が明らかになった。

1)粗雇用創出率、粗雇用喪失率は純雇用変動率よりもずっと高い。

2)全製造業では、粗雇用創出、粗雇用喪失のうち、開業・廃業に伴うものと存続事業所の雇用の増減によるものとが半々程度である。業種単位で見ると、事業転換に伴う雇用変動も一定の大きさを持っており、産業分類を細分するほどこれが大きくなる。

3)女子は男子に比べて粗雇用創出率、粗雇用喪失率ともに高い。

4)景気変動の雇用への影響は、米国の研究とは異なり、粗雇用創出において顕著である。

5)産業間、都道府県間での粗雇用創出率と粗雇用喪失率の相関は高くない。

6)粗雇用再配分率の高い産業の純雇用変動率が高いという関係はなく、新陳代謝の盛んな産業がネットで雇用を創出しているとは言えない。

7)産業別に見て、粗雇用再配分率の時間的継続性は高いが、純雇用変動率はほとんど継続性がない。都道府県別には、グロスでもネットでも雇用変動の継続性が認められる。

8)規模別に見ると、小規模事業所ほど粗雇用喪失率が高い。

9)製造業については、事業規制が雇用創出・雇用喪失に影響を与えている可能性が示唆された。ただし、非製造業を含めた全産業では規制の影響は見出せない。

10)事業所レベルでの粗雇用創出率、粗雇用喪失率等の数字をもって企業レベルでの粗雇用変動率の近似値と理解しても大きな間違いは生じない。