投資競争と設備投資変動:『横並び』行動に関する実証分析

執筆者 宮川 努/若林 光次/内田 幸男
発行日/NO. 1997年1月  97-DOJ-74
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概要

企業間の「横並び」による投資競争は、これまで新聞・雑誌では盛んに議論されてきたが、実証的に検討されたことはなかった。本論文では、設備投資の「横並び」行動を、紙・パルプ、セメント、鉄鋼、電子部品(半導体)、自動車の5業種について検証した。

まず、上記5業種に属する主要企業の設備投資比率について、その推移と企業間の相関行列を調べ、設備投資の連動性を定量的に計測した。さらに、「横並び」に伴う設備投資行動をより厳密に実証するため、各企業の設備投資比率を被説明変数とし、自社固有の変数、他社の投資行動を表す変数、業界共通の変数を説明変数とする投資関数を推計した。「横並び」行動は、他社の投資行動を表す変数が自社の設備投資に与える影響の大きさによって検証した。

分析の結果、紙・パルプについては、他社の投資行動を表す変数が、自社の説明変数以上に自社の投資行動を左右するという意味で、「横並び」による投資競争が行われているという結果が得られた。また、電子部品では、一部の推計で「横並び」投資の可能性を示唆しているが、全体としては業界全体の見通しに各社が影響を受け、類似した設備投資行動が取られているとみられる。さらに、セメントでは、不況カルテルやその後の構造改善の対象業種に指定された影響で、結果として「横並び」が生じた可能性がある。

このように、各社が一斉に設備投資を拡大したり、縮小したりしたとしても、必ずしもすべてが新聞・雑誌でいわれるような「横並び」と解釈できるわけではない。ずなわち、紙・パルプでは「横並び」行動があると解釈できるが、電子部品やセメントなどでは、業界全体の成長性の変化や制度的制約が要因となって、各社が類似した投資行動を取っているのである。