1980~90年代における欧州自動車産業のジャパナイゼーション:受注生産の世界から見込み生産の世界へ

執筆者 中川 洋一郎
発行日/NO. 1996年12月  96-DOJ-73
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概要

1980年代には、欧米企業が積極的に日本的生産システムを導入するだけでなく、企業内組織や労使慣行までも日本的になるというジャパナイゼーションの過程がみられた。しかし、企業による日本的システムの本格的な導入と同時に、一方では日本的なシステムに対するきわめて強い反発が生じている。ヨーロッパ的な観点からすると、日本的生産システムは本質的に労働強化であり、非人間的であるという見解、要するに日本的生産システムは《非人間的》であるので、とうてい容認できないという見解である。アメリカにおいても、労働側に立つ研究者から「ストレスによる管理」と批判され、日本においても、トヨタをはじめとする日本の自動車工場における労働は、「長時間・過密・不規則」であるとして厳しく批判されてきた。

しかし、《人間性》vs《効率》などというヨーロッパ的な図式でみている限り、 ジャパナイゼーションのインパクトが真に意味するもの(implications)を正確に捉えることはできない。 この図式を超えて、世界市場の大きな転換の過程に、ジャパナイゼーション拒絶の根拠を位置付けてみる必要があるだろう。

ヨーロッパ人たちが日本的システムを肯んじないのは、彼らの価値観が「個別の労働自体が価値を生む」という世界観にあり、日本的システムがそれを否定しているからである。すなわち、日本的システムを導入することは、彼らに世界観と、特に労働観の転換を強いている。ジャパナイゼーションの本格的な実施が持つインパクトは、職人的な価値観(本源的労働価値観)を克服して、見込み生産的な価値観へと転換するところにある。