製造業における撤退・縮小:政策の効果を含めた撤退・縮小の要因及び効果に関する産業横断的分析

執筆者 森川 正之
発行日/NO. 1996年4月  96-DOJ-70
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概要

日本の製造業の工場数は1983年を境に減少傾向に転じており、業種別に見ても過半数の産業で工場数が減少している。一方、産業構造転換の重要性が指摘される中で、いわゆる日本型経済システムの下では、収益性を失った衰退分野からの撤退・縮小は必ずしも容易ではないという議論がある。

このような状況を踏まえ、本稿では、日本の製造業における撤退・縮小について、近年の理論的な研究の進展等も踏まえつつ、産業横断的に定量的な分析を行う。分析の対象は、原則として工場レベルでの撤退・縮小(工場閉鎖、事業転換を含む)である。本稿での主な関心は、日本の製造業において、撤退・縮小を規定する要因は何か、収益性、市場の成長・衰退、退出障壁といつた通常の要因に加えて、市場構造(産業組織)に関わる諸要因、特殊日本的な要因が存在するかどうか、関連する政策はいかなる効果を持っていたか、といった諸点である。

本稿の分析結果の要点は、以下の通りである。

1)事業所数減少の要因については、生産額ないし付加価値額の減少に比例して事業所数は減少するが、弾性値は1よりもかなり小さい。また、事業所数の減少と増加との間に非対称性が存在し、出荷額ないし付加価値額の変動に伴う事業所数の変動は、拡大(粗参入)局面においてより弾力的であり、縮小(粗退出)局面において非弾力的な傾向がある。

2)事業所数の減少は、残存した事業所の生産規模を拡大する効果をもつ傾向が若干存在する。すなわち、衰退産業において、小規模事業所が相対的に多く撤退する傾向がある。

3)寡占度の高い産業において、大規模な企業ないし事業所の方が小規模なものよりも先に撤退する可能性があるという寡占モデルから導かれる仮説を支持するような結果がある程度観察される。

4)多数の工場をもつ企業ほど、多角化した企業ほど、また、外資系企業の方が、他の条件をコントロールしたとき、そうでない企業に比べて容易に撤退・縮小を行う傾向がある。

5)事業所数の減少の結果、当該産業の生産の効率性は向上しておらず、中立的ないし期間によっては生産効率を低下させていた可能性がある。逆に、事業所数の減少は、一般には残った企業の市場における市場支配力を高める効果を持っていなかった。

6)調整援助政策の効果は、特安法(1978年)については、撤退の抑制効果、事業所規模の縮小効果が観察される。産構法(1983年)については、逆に撤退(事業転換)促進効果があり、事業所規模を縮小させる効果が認められるものの、生産効率にはプラスの効果が見られた。円滑化法(1987年)については、撤退(事業転換)促進効果が多少認められたが、事業所規模に対する影響や生産効率に対する効果は弱いものであった。