旧ソ連邦諸国の経済体制変革について:戦後日本の経験が示唆するもの

執筆者 米村 紀幸/塚本 弘
発行日/NO. 1992年6月  92-DOJ-36
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概要

旧ソ連邦諸国は、現在、市場経済体制への移行に向けて、抜本的な経済体制変革に取り組みつつある。これらの諸国は、効率的な資源配分と経済発展は市場経済化によらなければ達成し難いとの基本的認識に立って、包括的な変革のパッケージを作成し、これを着実に実施していく必要がある。

このような変革のパッケージを成功させ、中央計画体制から市場経済への移行を円滑に行うために、旧ソ連邦語国はいくつかの基本的問題を解決しなければならないが、それを列挙すれば次の通りである。

(1) 市場経済を基本とする価値観の確立
(2) 国有企業の原則的私有化
(3) 市場経済の担い手としての企業経営者の育成及び企業組織の近代化
(4) 独占的寡占的産業組織の改革
(5) 価格の原則的自由化
(6) 産業構造の改革
(7) 対外経済関係の再構築
(8) 経済安定化と市場経済化の同時追求
(9) 経済政策の確立

他方、日本は第2次大戦後、戦時中の統制経済体制から市場経済体制に移行して目覚しい経済発展を遂げた経験を有している。その移行及び発展過程における特徴は、1)3つの段階で構成される漸進的及び段階的な市場経済への移行、2)目標の設定、3)生産拡大政策、産業合理化政策、中小企業育成政策及び輸出振興政策等の多様な産業政策の展開である。現在の旧ソ連邦諸国の経済状況と第2次大戦後の日本の経済状況とは完全に一致するわけではないが、重要な類似点も多く、上述の問題の解決において日本の経験を活用することは極めて有益であろう。

旧ソ連の経済改革への適用可能性を探る場合、戦後の日本の経験のうち次のような各種政策が有益な示唆を提供するだろう。

(1) 戦後経済統制の撤廃と貿易・資本の自由化
(2) 競争基盤の整備
(3) 企業経営の基礎と合理化
(4) 中小企業政策
(5) 旧軍需産業の民需転換
(6) 重要産業の自立
(7) 企業資本の蓄積
(8) 産業技術政策
(9) 輸出振興政策
(10)経済のソフトインフラ

このような日本の経験を考慮しつつ、第一義的には各国が自身の責任において経済改革を立案・実施しなければならないといえよう。