労働需給が経済に与える影響分析

執筆者 太田 房江/木田 勝也/木地 三千子
発行日/NO. 1991年11月  91-DOJ-33
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概要

我が国は、90年代において、労働力人口の伸び率が鈍化し労働価値観も変化する中で、同時に国民的課題として労働時間の短縮を進めることが求められている。昨今の人手不足感の強まりを背景に、こうした労働需給における変化が、今後の経済成長の制約要因になるのではないかとの懸念も出始めた。

本稿では、今後の労働供給の推移が経済成長に与える影響をマクロ経済レベルで大づかみに担え、今後の対応の方向を見出すためにいくつかの分析と試算を行った。

(1)まず、今後の労働力人口の伸びは鈍化するもののそれ自体が成長率に及ぼす影響はさほど大きいとは思われない。(労働力人口の伸びは近時の1.2%程度(1985年~90年の5年平均)から90年代前半は0.6%程度に、後半には0.3%程度の伸びに鈍化する。)主たる理由は、①過去の経済成長における資本・労働の寄与度分析では、60年代半ば以降の労働の寄与率は10~20%程度にすぎず、資本投下と技術進歩が主たる牽引力となってこれまでの経済成長が達成されてきたことは明らかであること、②労働の資本代替は多くの業種で活発に進んでいるが、いざなぎ景気時の生産性の伸びを勘案すると、サービス業や卸・小売業などを中心に資本装備率をさらに高める余地がある業種も多く、一部労働力不足が集約的に生じている業種においても資本代替圧力は強まり生産性が急上昇しつつあること、③労働供給についても、女子の労働力率の上昇や高齢者の参入などにより伸び率の鈍化を補う余地は十分にあること、などである。

(2)一方、1995年までに1800時間労働を達成する場合、労働生産性の伸びを80年代の平均値である3.1%とすると、1995年の経済成長は1.5%程度に大きく低下し、その影響は看過できない。

(3)しかしながら、労働時間短縮の生産性上昇効果(過去の実績によれば、1%労働時間を短縮すると労働生産性が0.7%上昇する)を考慮して試算を行うと、1995年の時点で1800時間労働と3.4%程度の経済成長が同時に達成される。

以上のことから、労働時間短縮による生産性上昇効果を最大限に高める方策を講じ時間当たり労働生産性をさらに高めることができれば、「成長とゆとりの両立」は十分達成可能であると考えられる。