2005年度主要政策研究課題

III. 公的負債、年金、医療、介護、保育に対する総合的アプローチ

財政赤字や巨額な政府債務残高問題にとどまらず、年金、医療、介護など社会保障問題を含めて総合的な新しい「高齢化の経済学」を作り、日本の財政のあるべき姿を明らかにする。

(1) 巨大な公的負債の維持可能性

20. 政府債務の持続可能性と公債管理政策の実証分析

代表フェロー

概要

我が国の政府債務の持続可能性が懸念される中で、今後どのようにして公債を円滑に市場で発行・流通させていくかが重要な関心事の1つとなっている。そのためには、財政・金融政策当局の役割分担や協調関係のあり方を客観的に検討する必要がある。
本プロジェクトでは、ファイナンス理論などを基にした(部分均衡理論的な)金融市場を中心とした分析と、マクロ経済理論を基にした(一般均衡理論的な)財政政策の経済効果を中心とした分析をよりよく包括した形で分析の枠組みを構築し、今後の我が国の公債管理政策のあり方や、政府債務の持続可能性を確保するための財政運営に関するルールのあり方を中心として、政策的含意を明らかにする。
また、十分に実現可能なプライマリーバランスの経路によって政府債務は維持できる、と主張する Broda and Weinstein (2004)の先行研究を再検証することを通じて、我が国の政府債務の持続可能性がどのような政策運営によって担保できるかを、より客観的に考察する。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

21. 最適な租税・社会保険料負担率

代表フェロー

概要

我が国では税や社会保険料の負担率を50%以下に抑える議論があるが、その根拠は薄弱である。たとえば負担率が70%前後の国でも経済は好調な国がある一方、30%前後の国の中にも経済不調なものもみられる。税や社会保険の負担はあっても、そのベネフィットを国民が受けているわけで、その事実を考慮しても我が国の負担率を50%以下に抑える必要があるかどうか検証する。いわば最適の負担率を求めるプロジェクトである。モデルによるシミュレーション分析等を進めていく。この研究の成果は、年金だけでなく医療、介護を含めた今後の社会保障制度全体の包括的検討にも、その前提として重要な寄与を果たすものと考える。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

(2) 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学

22. 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学

代表フェロー

概要

日本の高齢化のスピードは世界に類をみないほど急速である。これまでの高齢化の分析視角は、年金、医療・福祉といったそれぞれの制度別、かつマクロ的なアプローチが主流だった。しかし、社会保障問題の究極的な目標がそれぞれの高齢者の Well-Being の向上をめざすとするならば、むしろ「高齢者」の視点から、総合的に社会保障問題を捉えなければならない。こうした分析を可能とするためには、ミクロ的アプローチが不可欠になろう。
本研究では、日本で著しく不足している高齢者のパネルデータの作成にとりかかるとともに、
(1)高齢者の健康状態、医療・介護需要、
(2)高齢者の所得・消費、資産形成、
(3)高齢者の労働供給
の3つに重点を置き、高齢者の異質性に十分配慮しつつ、社会保障が果たす役割を明確に捕らえ、政策的インプリケーションを導く。

主要成果物

RIETI政策シンポジウム

「くらしと健康の調査」ご協力のお願い

(3) 年金制度はいかにあるべきか:新しい制度を探る

23. 社会保障研究

代表フェロー

概要

高齢化社会の急速な進展は我が国の社会保障制度の持続可能性を揺るがしており、全般的な見直しが不可避となっている。特に公的年金制度に関しては2004年の制度改正によって様々な措置が講じられ持続可能性は改善をみたが、更なる制度改正を望む意見も多い。そこで、本プロジェクトでは高齢化の経済学( Economics of Ageing )の視点から、
(1)2004年改正の効果と制度の更なる持続可能性向上のための政策手段
(2)我が国のおかれた経済状況を踏まえた上での、望ましい年金制度に求められる諸条件
(3)主要な年金改革各案の実現可能性と評価
等について整理し、社会保障制度を明示的に組み込んだマクロ経済モデルによるシミュレーション分析等を行う。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

(4) 労働市場参加へのインセンティブ、労働移動、社会保障との関係

24. 高齢者雇用研究

代表フェロー

概要

高齢化を迎えている我が国において、高い能力と経験を持つ高齢者を積極的に活用していくアクティブ・エイジング社会を目指すことは、経済の活力を維持し、長期的に持続可能な社会保障制度を構築するためにも時代の要請であるといえる。そこで本プロジェクトでは、国内外のミクロデータ、集計データを用いて、以下のパートからなる総合的研究を推進していくものとする。
(1)賃金、年金、職種、労働需給および雇用管理と高年齢者労働供給行動に関する分析
(2)年齢別労働需要の代替関係についての分析
(3)高齢者就業が高齢者の健康資本に与える影響に関する分析

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

25. 労働移動研究

代表フェロー

概要

我が国の企業と労働者の関係が、これまでの社会の安定と経済効率を支えてきた「保障と拘束」の関係から「自己責任と自己選択」を求める関係に移行しつつある。これに伴い、個人の自己選択を支える社会的基盤として、企業外部の労働資源配分を行う「外部労働市場」が機能することが必要であるが、現状ではその機能が十分でないため、ミスマッチに基づく失業が増大している。外部労働市場を機能させるためには、雇用機会の創出とともに、職業紹介と能力開発のシステムを整備していく必要がある。本研究では、外部労働市場の機能向上を通じた円滑な労働移動の実現に寄与するため、ミクロデータによる統計分析を行い、とくに日米欧の国際比較を通じ、また、事例研究も踏まえ、我が国が抱える雇用創出や職業紹介、能力開発支援の問題点を明らかにし、改善策を検討していく。

主要成果物

RIETI経済政策分析シリーズ