公共支出の受益と国民負担に関する意識調査と計量分析

執筆者 橘木 俊詔  (ファカルティフェロー/京都大学) /岡本章  (岡山大学) /川出真清  (新潟大学) /畑農鋭矢  (明治大学) /宮里尚三  (日本大学)
発行日/NO. 2006年12月  06-J-058
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概要

我が国の財政状況は先進国の中で最も厳しい状況にある。そのような中、少子高齢化が今後ますます進展することもあり、国民負担の増大が避けられないものとなっている。租税や社会保障の負担の増大が労働インセンティブにマイナスの影響を与え経済の活性化を妨げるという意見もあり、国民負担率(あるいは潜在的国民負担率)の増大をできるだけ回避するため、公共支出や社会保障制度の改革が断続的に行われている。しかしながら、医療、年金、介護といった社会保障制度から人々は一定の便益を得ているのも事実であるし、現在世代や将来世代にとって有益な社会資本も存在する。したがって国民負担率がどの程度が望ましいのかについて議論する際には公共支出や社会保障制度からの便益も同時に考察しながら議論を進めることは重要であろう。我々はこのような視点に立ちアンケートを行うとともに、主成分分析の手法などを用いてアンケート結果の考察を行った。

アンケートの集計結果の考察から、人々は社会保障制度に対しての期待は高いが、一方で公共サービスは非効率であるとも考えているようである。また、人々は所得や資産の変動リスクを再分配政策によって回避することより、長生きのリスクや病気になるリスクの回避を重視していると解釈できた。

主成分分析からは、男性は女性に比べて保険に関して関心を持ち、社会保障制度に保険以外の側面に価値をおいていることが分かった。また、社会保障制度の縮小についても否定的で、社会資本整備などは削減や効率化を望んでいることが分かった。一方、女性は小さな政府を志向し、再分配的側面ではなく受益と負担が一致した社会保障制度などを求める傾向にある。ただし、教育や環境といった政府支出に関しては充実を求める傾向がうかがえる。また、世帯年収については低所得者ほど小さな政府に関しては否定的であることが読み取れる。学歴に関しては高学歴ほど大きな政府には肯定的だが、政府サービスの削減と効率化を望んでいることが示された。