社会保障制度における望ましい財源調達手段

執筆者 橘木 俊詔  (ファカルティフェロー/京都大学) /岡本 章  (岡山大学) /川出真清  (新潟大学) /畑農鋭矢  (明治大学) /宮里尚三(日本大学)/島 俊彦(東京大学大学院)/石原章史(London School of Economics)
発行日/NO. 2006年12月  06-J-057
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概要

 本稿では、政府支出の便益評価を組み込んだ多世代重複型の動学的一般均衡モデルを用いて、公的な医療保険および介護保険の財源調達手段の優劣を検討した。また、シミュレーション計算を行う上で外生的に設定する必要のあるパラメータについても、先行研究に盲目的に従うのではなく、核となる部分については詳細な再考察を加えた上で数値の再設定を試みた。

 このように既存研究からの発展・拡張を図ったモデルにより分析を行った結果、公的な医療給付や介護給付の財源調達手段としては、社会保険料や利子所得税よりも消費税が望ましいとの結論が得られた。この結論は、資本蓄積の阻害という点から見ると、消費税の攪乱効果がもっとも弱いことから生じており、多くの先行研究の成果や標準的なマクロ経済理論と整合的である。ただし、消費税の優位性の程度はパラメータ設定に大きく依存しており、先行研究の計測結果は過度に消費税に有利であった可能性も排除できない。

 また、人口構造の高齢化の程度に注目して、2005年時点の定常状態と2050年時点の定常状態を比較すると、消費税への財源シフトによる社会厚生の改善度は2050年時点で遥かに大きいものであった。したがって、パラメータ設定に注意を払うべきであるものの、高齢化が進行した社会においては、社会保険料や利子所得税から消費税へのシフトがより望ましいものになると結論付けることができる。