やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治
第7回 インフラ更新にも影響
小黒 一正
コンサルティングフェロー
人口減少や地方消滅が進む今後は、公共インフラを含む「資本蓄積」の維持更新の選別基準にも長期的な視点が不可欠になります。
日本では1950~60年代に本格的な公共インフラ整備が始まりました。それらが耐用年数の50年を過ぎた2010年ころから、老朽化が急速に顕在化し始めています。2012年には、中央自動車道の笹子トンネルで崩落事故が起こりました。米国も80年代に公共インフラの老朽化に直面し、橋が落ちるなどの事故が起きました。
公共インフラの維持更新を進めていく際、人口減少との関係で、将来推計人ロの分布や「地理情報システム(GIS)」などを活用した空間的な立地選択の重要性はいうまでもありません。さらに、投資の「時間的な視野」を考えることが必要です。
一般的に公共インフラの最適な供給量は、人口増減率で異なります。議論を単純化するため、人口1単位当たりの最適なインフラ供給量を1とし、人口が50年間で100から160まで増加する場合と、人口が50年間で100から40まで減少する場合を考えましょう。
このとき、人口100の時点で100のインフラ供給をしても、人口が増加する場合、人口160の時点で160のインフラが必要なことから、100の供給は無駄になりません。しかし、人口が減少すると、人口40の時点で40のインフラしか必要でないため、60のインフラ供給が無駄になってしまいます。時間的な視野として、インフラのライフサイクルコストも考慮する必要があります。
日本が競争力を維持するには、中長期的に利用される可能性が低い公共インフラの維持更新への投資は抑制し、利用の可能性が高い都市部などのインフラを強化するのが効率的です。しかし、政治的な調整は容易ではありません。その合意を図るためにも、客観的データに基づいた公共インフラの選別基準づくりを急ぐべきでしょう。
2015年11月4日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治」に掲載
2015年11月18日掲載
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