地方創生2.0を成功に導くために何が必要か

小黒 一正
コンサルティングフェロー

石破政権の柱の1つである「地方創生2.0」を成功に導くためには、「人口問題(出生率の問題を含む)」(①)と「地方の持続可能性」(②)を切り離し、人口減少を前提に、データを真摯に直視した上で、「スマートシュリンク(賢い縮退)」という戦略を基本に据えながら、②の問題に政府が真剣に取り組むことが求められる。この理由を以下で簡単に説明しよう。

まず、データを直視することの重要性だ。政府は「証拠に基づく政策立案」として、EBPM(Evidence-Based Policy Making)を推進しているが、思い込みや間違ったデータに基づき政策を実施すれば効果が得られないのは当然であり、効果を出すためには正しいデータに基づき政策ターゲットを判断する必要がある。この関係で筆者が重要と考えているデータが2つ存在する。

東京都心3区の平均出生率は沖縄に次ぎ2番目に高い

1つは、出生率のデータだ。これまでの地方創生では、いわゆる「東京ブラックホール論」(出生率の低い東京に地方から若者が集まることで日本全体の出生率が低下してしまうという仮説)に基づき、東京一極集中の是正を進めてきたが、出生率に関する多角的な指標で都道府県等の比較を行うと、この仮説が間違っている可能性が浮き彫りになる。

確かに、「合計特殊出生率」という指標で都道府県別ランキングをみると、東京都が最下位となる傾向が多いが、「平均出生率」(未婚女性を含む、出産可能な15歳~49歳の女性人口1,000人あたりの出生数)という指標で都道府県別などのランキングをみると、東京都は最下位でない。

図表:出産可能な女性人口(15歳~49歳)1,000人あたりの出生数
[ 図を拡大 ]
図表:出産可能な女性人口(15歳~49歳)1,000人あたりの出生数
(出所)総務省(2021)「令和2年(2020年)国勢調査」から筆者作成

この事実を確認するため、図表は、「国勢調査」(2020年)データから、都道府県別などの平均出生率(未婚の女性を含む、出産可能な15歳~49歳の女性人口1,000人あたりの出生数)を計算してグラフにしたものである。

平均出生率の値が最高位なのは沖縄の48.9、第2位は宮崎の40.7だが、東京の平均出生率も31.5で、最下位でなく42位だ。東京の前後では、40位の岩手(32.4)、41位の青森(32.2)、43位の奈良(31.4)、宮城(31.1)、京都(31)、北海道(30.8)が並び、最下位は秋田(29.3)となる。しかも興味深いのは、東京都心3区(千代田区・港区・中央区)の平均出生率は41.7で、既述の47都道府県の値と比較すると、東京都心3区は沖縄に次ぐ2位になることである。

地方から東京に流入する若者の85%は就職段階

もう1つ重要なデータは、東京に流入する若者の属性に関するものだ。マスコミ等の一般的な論調では、「地方の若者が東京に流入する主な段階は、大学等の進学時点である」と指摘する有識者も多いが、これは誤解だ。これは、住民基本台帳人口移動報告(2023年)からすぐに分かる。このデータによると、2023年での東京への流入超過は男女計で約5.8万人になっている。これは、東京から流出3.8万人と流入9.6万人との差だが、この流入9.6万人のうち、15歳~19歳が占める割合は14.5%に過ぎず、20歳~24歳が占める割合は63.6%、25歳~29歳が占める割合は21.8%にもなっている。20歳~29歳で85.3%も占める。

大学等の進学は通常は18歳、就職は22歳や23歳が多いことから、地方の若者が東京に流入する主な段階が大学等の進学時点というのは誤解であり、就職時点であることは明らかだ。また、以上のデータは男女別でもおおむね同じであり、男性の場合は15歳~19歳が占める割合は13.9%、20歳~29歳が占める割合は86%、女性の場合は15歳~19歳が占める割合は15.1%、20歳~29歳が占める割合は84.6%となっている。なお、学校基本統計(令和5年度)のデータを精査すると、東京都内への大学進学者のうち、1都3県の高卒者で既に約7割、関東圏の高卒者で約8割弱も占めていることも分かる。

人口減少が進む中では、経済成長率と人口密度との関係から、コンパクトシティの推進などが重要であり、都市部への人々の移動を抑制するのは経済成長率に負の影響を及ぼすために筆者は基本的に賛成しないが、政府が本気で地方の若者が東京に流入するのを抑制したいなら、大学等の進学段階でなく、就職段階での対応を検討する必要があろう。

人口減少前提の「スマートシュリンク(賢い縮退)」の戦略の重要性

なお、国土交通省が2014年に公表した「国土のグランドデザイン2050」によると、2010年から2050年で人口が5割以下あるいは無居住化する地域が日本全体の6割にも達するとの予測が示されている。地方創生や少子化対策により、人口減少をくい止めるのは容易でないという現実も直視する必要がある。実際、地方創生は2014年から始まっているが、2015年で1.45であった合計特殊出生率は、2023年では1.20というように、8年連続で低下しており、現在のところ、地方創生が出生率を引き上げる効果は確認できない。

このような状況が示す通り、いくつかの都市が消滅することは避けられず、もはや人口減少を前提として、「スマートシュリンク(賢い縮退)」の戦略を基本に据えながら、地方の持続可能性を検討していくしかない。スマートシュリンクについては、国土交通省「今後の市街地整備制度のあり方に関する検討会」の報告書(2008年6月)等でも、「低密度化が進む市街地について、荒廃化を招くことのないよう、一定程度の都市サービス機能は維持しつつ、樹林地等の「みどり」や、耕作地・市民農園等の「農地」に、あるいは二地域居住等に対応した新たな郊外住宅地等の「住まい」への土地利用転換を誘導していくなど、上手に縮退していく(スマートシュリンク)方策」との記載があり、その重要性が指摘されている。この報告書が出てから、15年以上も経過しているが、地方創生2.0を成功に導くためにも、「人口問題(出生率の問題を含む)」(①)と「地方の持続可能性」(②)を切り離し、経済成長率と人口密度との関係性にも留意しながら、賢い縮退の徹底でコンパクトシティの推進等も行い、②の問題に政府が真剣に取り組む必要があろう。

2024年11月19日掲載

この著者の記事