やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治
第6回 予算管理は中長期で
小黒 一正
コンサルティングフェロー
少子高齢化が急速に進む日本では、「世代間公平」と「財政の持続可能性」を同時に達成する財政運営が求められています。しかし、現行の予算編成の仕組みは、財政の持続可能性のみに議論が集中する傾向が強くなっています。
原因の1つは、財政が「単年度」という極めて狭い時間的視野で運営されていることにあります。もう1つの原因は、現在の財政が個人の生涯で政府に支払う負担と、政府から得る受益の「時間差」を考慮していないことにあります。
治安や国防といった政府消費や、ダムや道路などの社会資本形成に向けた政府投資から得る受益と、税金などの負担は、どの年代も若干の変動はありますが同程度です。個人が生涯を通じて得る受益と負担の時間差は小さいといえます。一方、年金・医療・介護といった社会保障は、保険料などを負担してから、給付を受けるまでの時間差が大きいといえます。
現在は、時間的なズレが大きい「社会保障予算」と、時間差が小さい「それ以外の予算」を一緒に単年度で管理しています。そのため、膨張する社会保障予算を抑える「財政の持続可能性」に気を取られ、「世代間格差」の是正に目を向ける余裕がなくなってしまいます。
これを解決するには、各世代の生涯での負担を把握する「世代会計」を今の予算編成に組み込むことが必要です。その上で、社会保障予算とそれ以外の予算を厳格に区分し、改革の核である社会保障予算については「単年度」ではなく、「中長期」で管理することが必要でしょう。
もう1つの手段が、世代会計を参考に数年間の歳出枠を定める「マクロ予算フレーム」です。例えば、世代会計や内閣府が推計した慎重な将来の経済見通しなどを参考に、今後3~5年程度の歳出枠を政治主導で決めます。その上で、各省庁が予算を効率的に使っているかどうかを国会が監視する仕組みを設ければよいのです。
2015年11月3日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治」に掲載
2015年11月18日掲載
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