やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治

第2回 「1人当たり」で成長見る

小黒 一正
コンサルティングフェロー

成長戦略や経済対策など多くの政策決定において、政府や政治家が参考とする経済指標は、国内総生産(GDP)です。では、それは適切な指標設定といえるのでしょうか。

2003年から12年の日本の「1人当たり実質GDP伸び率」の年率平均値は0.82%でした。これは図表の主要国のうちで、4番目の成長率です。つまり欧米と比較しても、日本は中程度の成長をしているのです。

主要国の1人当たり実質GDP伸び率
順位国名1人当たり実質GDP伸び率
1オーストラリア1.40%
2ドイツ1.31%
3米国0.96%
4日本0.82%
5英国0.64%
6フランス0.45%
7イタリア-0.67%
(出所)経済協力開発機構
(注)2003~12年、年率、平均値

しかし、一般の感覚は異なるでしょう。この理由は1人当たりではなく「全体の実質GDP伸び率」が年々、低下しているからです。実際、1980年代は平均4.7%だった実質GDP伸び率は、90年代には平均で1.1%まで低下し、その後は0.8%程度と低下傾向にあります。少子高齢化で急速に労働人口が減少するため、2020年~40年代で、日本の実質GDP伸び率はマイナスに陥る可能性を示唆するシンクタンクなどの試算もあります。

ところで、標準的な経済学では生活水準の向上は1人当たり実質GDPの増加で表現することが適切とされています。また、所得水準が上昇するにしたがって成長率は低下するという「収束仮説」を用いれば、経済の成熟に伴い成長率が鈍化するのは自然なことです。

実質GDP伸び率が低下傾向にあるという理由だけで、過度に悲観する必要はありません。人口減少社会において重要なのは、生活水準の向上を表す1人当たり実質GDPの増加ペースが、他の先進国と比較して、どの程度であるかということにあるのではないでしょうか。

2015年10月28日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治」に掲載

2015年11月18日掲載

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