私たちは今、人口減少という大きな波に直面しています。今後の政策決定には、何が求められるのでしょうか。本稿では公共経済学の観点から、人口減少下での政策決定について考えます。
2008年。これは日本が本格的に人口減少に突入した年、つまり「人口減少元年」です。人口減少は「静かな有事」ともいわれます。総務省の国勢調査によると、08年の人口減少数は約8万人ですが、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口では、15年の減少数は約35万人と予測されています。
今後はどうでしょう。人口減少のスピードは勢いを増していきます。15年の人口減少率は0.28%ですが、25年は0.61%、50年は1.05%になります。「減少数」で見るともっと明確です。将来推計人口によると、25年の人口減少数は74万人、50年は102万人になります。
時間の経過に伴い、人口減少や労働人口減少の影響は大きくなります。専門家の多くは、大幅な生産性の向上がない限り、潜在的な経済成長率が低下するのは避けられないとの見通しをしています。また、25年には団塊の世代が全て75歳以上の後期高齢者となりますが、高齢者人口の増加は、医療・介護などの社会保障費の増加を通じて財政を圧迫していきます。
人口が増えた高成長の時代には、政治は増えた富を配分することで大きな力を発揮しました。しかし、人が減る低成長の時代に突入して以降、政治の役割は「正の分配から負の分配」に急速に変わりつつあります。現実的にはそれに対応できず、政治は機能不全に陥っています。このような状況の下、政治が機能するための政策決定はどうあるべきなのでしょうか。本シリーズでは、この問に対するヒントを探っていきます。
2015年10月27日 日本経済新聞「やさしい経済学―公共政策を考える 人口減少下での政治」に掲載