実証-中小企業金融の実態(下)
信用保証制度には効果があるのか

植杉 威一郎
コンサルティングフェロー

前回までは、民間金融機関と中小企業の関係を取り上げてきた。一方、中小企業金融では、公的部門による関与も大きい。経済学の理論では、借り手のリスクを負担する、借り手に関する情報を生み出すといった理由から、公的部門の中小企業金融に対する介入が正当化される。

しかしながら、介入の妥当性を巡る議論は理論的な整理にとどまり、その効果が実証されないままになっている場合が多い。

本稿では、日本における公的関与として、政府系金融機関による直接貸し付けをしのぐ規模と広がりを持つ信用保証制度に焦点を当てる。信用保証とは、中小企業向けの貸し付けが焦げ付いた場合に、元本と利子を各地に所在する信用保証協会が代わりに支払、金融機関が中小企業に資金を流しやすくするための仕組みである。日本では、他国と比しても信用保証への依存度が高い。残高は29兆円であり、中小企業向け貸付額全体の11%に上る。この信用保証の中でも、90年代末から2000年代初頭に大規模に実施され、効果に賛否両論がある特別信用保証を取り上げて、制度の効果を分析する。

政府介入としては空前の措置だった特別信用保証

バブル以降の不況期において、日本政府は、従来これまでにない規模や内容で、銀行貸出市場への介入を行ってきた。これらは、経済学者が政府介入の意義を考える上で、重要な素材を提供する。中小企業を対象として実施された特別信用保証はその最たるものである。これは、98年秋をピークとするパニック的な信用収縮とその結果としての中小企業倒産の増加などに対応するために、新たに設けられた制度である。規模(保証枠30兆円、当時の中小企業向け貸付額の約1割)、時限性(98年10月から01年3月)、審査基準(破綻、税滞納などのネガティブリストを満たさない限りにおいて保証提供)などのいずれにおいても、日本のみならず世界的にも例の少ない大規模な貸出市場への介入である。この制度は、当時、中小企業への直接貸し付けを行う政府系金融機関よりもはるかに大きな役割を、良きにつけ悪しきにつけ、果たすことが予想されていた。それだけに、政策当局では、この劇薬ともいえる制度の実施に慎重な向きも少なくなかったといわれている。

具体的に、特別信用保証を実施する場合に制度の実施に際して想定されていた、2つの相反する効果を整理しておこう。まず、政府部門が借り手企業の信用リスクを引き受けることによって、民間金融機関による貸し渋りを緩和し、収益性の高い事業を企業が行えるようにする前向きの効果がある。当時97、98年頃の日本経済では、相次ぐ金融機関の破綻もあって銀行の貸出態度は非常に厳しく、中小企業に対する貸し渋り・貸し剥がしの事例が頻繁に報告されていた。特別信用保証には、厳しい銀行の貸出態度を緩和する役割が期待されていた。しかし、同時に、負の側面も懸念されていた。収益性の低い企業しか特別信用保証を利用しないという逆選択、銀行からモニタリングされないのに乗じて特別保証利用企業が怠けるというモラルハザードがその典型である。

特別信用保証利用企業と非利用企業のパフォーマンスの違い

これらの問題は、担保を提供する場合が少なく、申請件数が膨大で、事前の審査を保証協会が十分に行えなかった可能性のある特別信用保証においては、特に深刻だったと考えられていた。実際にも、企業が「保証付き貸し付けを得て株に投資した」、「特に使い道はなかったが、借りられるというので保証付き貸し付けを得た」、「保証付き貸し付けを得て1カ月で倒産した」などという例が、新聞で報じられている。

貸し付けを増やして一部の収益を押し上げた特別信用保証

果たして、いずれの効果が勝っていたのだろうか。これら2つの効果のうちいずれが大きいかを検証するため、特別信用保証利用企業・非利用企業のうち03年まで存続している約3500社を追跡し、保証利用前後におけるパフォーマンスの変化を調べた。この結果、特別信用保証利用企業では非利用企業に比べて、
・長期借入金の比率が増加する
・借入金利には有意な変化がみられない
・借入金ほどではないが設備投資も大きい
・収益率が、信用リスクの低い企業で改善する
――という結果が得られた。公的部門が企業の信用リスクを負うことによって、銀行が貸出を増やした。これを受けて企業が設備投資を行い、一部の企業では収益性も高まった。信用力の高い企業では、モラルハザードによって企業が怠けて収益性が低くなるというよりも、貸し渋りが緩和され、必要な事業を行って収益性を高めた場合の方が多かった。90年代後半のような局面では、公的部門による積極的なリスクテイクが功を奏したと言える。

低下しない金利

一方で、もっと大きな効果があっても良いという見方がある。特別信用保証の利用によっても企業の支払う金利が低下していないからだ。金融機関にとっては、元本と利子を100%保証してくれる特別信用保証を用いる限り、企業の信用リスクを負う必要はない。事務コストを考慮に入れても、信用保証なしの貸し付けに比して金利が低くなると予想される。総務省は、『政府金融機関等による公的資金の供給に関する政策評価書』において、こうした金利低下を通じて、公的部門から民間に、最大で年間約5800億円の所得移転が行われたと試算した。貸付金利が実際に信用リスク分だけ低下していれば、特別信用保証の利用企業に、これらの所得が移転したはずである。

ところが、我々が見た限りでは、特別信用保証の利用による金利低下は観察されていない。なお、この現象は、特別信用保証に限らず、信用保証付き貸し付け全般に共通したもののようである。中小企業庁が示した資料によれば、信用保証付き貸付金利は、中小企業を主な顧客とする信用金庫の貸出約定平均金利を常に上回っている。

より効果のある制度に向けて

信用保証には、深刻な貸し渋りによる資金制約を緩和する効果があることが分かった。同時に、借り手の支払う金利が低下せず、公的部門によるリスクテイクの効果が、中小企業に十分伝わっていない可能性がある。

信用保証制度については、現在、保証料率やデフォルトコストの負担の仕方などにおいて、大きな改革が進行中である。これらに加えて、信用保証の効果を増すために、どのような手だてが講じられるか、金利設定における改善の余地はないかといった点についても、議論が必要と考えられる。

2007年10月22日 日刊工業新聞に掲載

2007年11月6日掲載