実証-中小企業金融の実態(中)
担保・保証人の機能 再評価を

植杉 威一郎
コンサルティングフェロー

前回は、金融機関と中小企業のリレーションシップがバブル崩壊後もなかなか深まらないことを見た。これまでリレーションシップを生かした貸し付け手法が浸透していない理由として一般に想定されているのが、担保・保証人への過度の依存である。確かに、バブル期に不動産担保貸し付けを行った金融機関は、担保価値のみに重きを置き、企業の行う事業そのものに関する情報に無関心だったと言われる。これが正しいとすると、密接なリレーションシップは、担保や保証人を求めなくなって初めて成り立つ。本稿では、担保・保証人とリレーションシップとの関係を検証する。

やはり多い不動産担保と本人保証の提供

中小企業では、どのような担保や保証を、どの程度の割合の企業が提供しているのだろうか。表1は、01年時点で約6000社の企業について担保や保証人の提供状況をまとめたものである。全体の約8割弱、7割強の企業が、担保、保証人をそれぞれ提供していることが分かる。内訳を見ると、担保では土地・建物といった不動産担保が、保証人では経営者自身による本人保証が圧倒的に多い。

表1 担保・保証人の提供状況

こうした数字を見て、「米国などの諸外国に比して、日本の中小企業金融は、担保や保証人に依存しすぎである」との指摘がされることがあるが、これは必ずしも正しくない。米国の中小企業金融の動向を示す統計に基づけば、個人保証を提供する中小企業の比率は、日本と大きく異ならない。また、筆者が聴取調査を行った米国の商業銀行によると、日本の信組程度の資産を有する金融機関から大手行に至るまで、オーナー経営者本人による保証がない中小企業向け貸し付けは、「事業を行う本人すら保証できない案件」として、通常は審査を通らないとされる。

もちろん、米国の一部の州では、配偶者による保証を求めることが禁じられているなど、日本との違いもある。そもそも、米国ではベンチャーキャピタルやエンジェルなどエクイティーを通じた資金供給が日本に比して多く、貸し付けに依存する必要はないという指摘もあるだろう。しかし、情報が余り公開されておらず、将来性やリスクを把握しにくい大多数の中小企業に対する貸し付けにおいては、担保や保証人などに相当程度頼らざるを得ないというのが、洋の東西を問わない実情のようである。

リレーションシップと補完的な担保・保証人

次に、担保・保証人と金融機関と企業のリレーションシップはお互いどのような関係にあるかを見る。典型的な考え方は、以下のようなものだろう。まず、担保や保証人が提供されていれば、仮に貸し付けが焦げ付いたとしても、担保処分や保証人による債務履行により、金融機関が被る損失は小さくなる。貸し付けのリスクが低下するのであれば、金融機関は、貸付先企業の健全性を頻繁に把握する必要を感じなくなる。長い間取引関係を築いて企業の本当の価値、本当の信用リスクを見極める必要もなくなる。すなわち、担保・保証人とリレーションシップ、金融機関によるモニタリングは負の相関を持つと予想される。

ところが、データは正反対の結果を示している。すなわち、リレーションシップが深まっている企業、金融機関が頻繁に貸付先と接触している企業ほど、担保や保証人を多く利用しているのだ。表2では、02年時点において、リレーションシップの密接さやモニタリングの頻度が高くなるほど、担保提供率が上昇することが示されている。この傾向は、信用リスクの高低によって企業をグループ分けしても変わらない。

表2 リレーションシップやモニタリングと担保提供比率の関係

担保や保証人を得ることで、金融機関は「怠ける」のではなく、担保をはじめとする企業の資産価値や事業内容を頻繁に観察する、多くのサービスを提供してリレーションシップを深めるといった行動をとっている。すなわち、担保・保証人とモニタリング、リレーションシップの関係は、一方が増えればもう一方が減るという代替的な関係ではなく、両方とも増えるという補完的な関係にある。これは、資産価格が下落を続ける中で、不動産担保に頼ってモニタリングを怠っていては貸し付けが焦げ付くばかり、という金融機関にとっての厳しい状況を反映しているのかもしれない。

加えて、近年、在庫や機械設備などを担保にした貸し付けが進んでいる。これらの資産は、不動産と比べて企業の事業内容と結びつきが強い。このため、担保提供と企業に対する金融機関のモニタリングとの補完的な関係は、今後さらに強まると考えられる。

企業経営の規律付け

なお、筆者は「担保主義の復活」を提言しているわけではない。担保を持たない創業間もない企業に対しては、担保ではなく事業そのものを評価する貸し付けの仕組みが必要だ。また、事業とは関係のない第三者による保証にも問題が多い。

必要なことは、こうした留保を付けた上で、担保と保証人の果たす役割、すなわち、金融機関によるモニタリングや密接なリレーションシップを促す役割を積極的に評価することだろう。やみくもに無担保貸し付け・無本人保証貸し付けに走ることなく、企業経営への規律付けという、担保・保証人の果たす重要な役割の再認識が求められている。筆者も、この点を実証的に示すべき、現在、研究を進めているところである。

2007年10月8日 日刊工業新聞に掲載

2007年11月6日掲載